最新記事

核協議

対イラン制裁は意味がない

ヨーロッパ外交のキーパーソンが語った協議再開の本当の意味と制裁措置の効力

2010年12月7日(火)17時33分
ジョシュ・ロギン

最初の一歩 ビルト外相(左)はクリントンのスピーチはアメリカの姿勢軟化の証だとイランのモッタキ外相に語ったが Natalie Behring-Reuters

 国際的な制裁体制を作っても、イランの核開発計画を放棄させることはおそらくできない。そして12月6日に再開した核協議は、今後何年もかかるプロセスの始まりに過ぎない――スウェーデンのカール・ビルト外相はそう語った。

 ヨーロッパの外交の世界で大きな影響力を持つビルトは、親イラン派ではない。イランの人権侵害を容赦なく批判しているし、同国の刑務所に収監されているヨーロッパ人の解放のために尽力している。しかし先ごろバーレーンで開かれた安全保障をめぐる対話国際会議では、欧米諸国が作ろうとしている制裁体制を批判した。

 ビルトはヒラリー・クリントン米国務長官が講演した12月3日の夕食会で、イランのマヌーチェフル・モッタキ外相の隣の席に座った。ビルトは核開発をめぐるイランとの交渉やモッタキとの対話について、独占インタビューに答えた。

 クリントンは以前、国際的な制裁体制がイランを交渉のテーブルに戻し、同国の政策決定を動かしてきたと述べているが、ビルトはその考えに異論を唱えている。「イランは1年前も半年前も、そして今回も交渉に応じている。解決策が見い出せるのは交渉のテーブルの上だ。イランがテーブルに着かないまま問題が解決するとは考えられない」

イランとアメリカの根深い不信感

 制裁はプロセスの一部だが、解決そのものではないとも、ビルトは指摘している。「強硬な制裁を行えば自動的に問題が解決すると考える人がいる。イランが突然折れて『何でもあなたの言うとおりにします』と言うように。そんなのは夢物語だ」

 長期的に見れば制裁は効果があるかもしれない。だが「10〜20年はかかる。短期的に状況を変えられるのは協議しかない」と、ビルドは語る。しかし、前述の6カ国との核開発協議を進展させるには数回の協議を重ねる必要があるだろう。

 アメリカが裏で手を引いた53年のクーデター、79年のイラン革命などが原因で、イランとアメリカの間には根深い不信感がある。「大きく前進するには、まず小さな一歩から始めなければならない」とビルトは指摘する。

 幸運なことに、欧米諸国にはまだ時間がある。ビルトが見るところ、イランの核開発は想定よりずっと遅く進んでいる。

 夕食会の席でビルトは、民間利用の核開発を進めるイランの権利に注目して批判を避けたクリントンのスピーチは、関係改善を望むアメリカ側の大きな姿勢転換だとモッタキに語った。

 モッタキもこれには同意したが、事態が大きく変わることはないと考えているようだったという。「確かに大きな変化だが」と、モッタキはビルトに答えた。「テヘランにはアメリカを信じない人間が数多くいる」

Reprinted with permission from The Cable , 7/12/2010. ©2010 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍の活動活発化、台湾総統外遊への反応でない=米

ビジネス

サントリーHD、鳥井信宏氏が社長昇格 10年ぶり創

ビジネス

日経平均は4日続伸、一時4万円台回復 半導体株しっ

ワールド

韓国大統領「最後まで闘う」、戒厳令を正当化 与党は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 5
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 6
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 6
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 9
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 10
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中