最新記事

アハマディネジャド

「イスラエル消滅」は口先だけじゃない

レバノンでヒズボラの拠点を訪問したイラン大統領の扇動行為は中東和平交渉を脅かす

2010年10月15日(金)18時18分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

大歓迎 ヒズボラ支持者から歓声で迎えられたアハマディネジャド Jamal Saidi-Reuters

 「この地を占領しているシオニスト(ユダヤ主義者)たちは現実を受け入れて、祖国に帰るしかない」

 10月14日、レバノン南部を訪問したイランのマフムード・アハマディネジャド大統領は、喝采で沸く群衆を前に勝ち誇った様子で語った──イスラエルは消滅する運命にある。イスラエルと国境を接するレバノン南部は、イランが支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラの拠点でもあり、アハマディネジャドは熱烈な歓迎を受けた。

 演説会場の近くには、イスラエルとヒズボラの戦闘の軌跡を野外に展示した観光スポット「抵抗博物館」があり、家族連れで賑わっていた。観光客はここで、拘束されたイスラエル兵の武器で遊んだり、帽子やTシャツを土産として買っていくという。

 このイラン大統領のレバノン訪問に先立ち、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ロジャー・コーヘンは、アハマディネジャドは鼻持ちならない人物ではあるが心配には値しないと、紙面で論じた。理由はコーヘンがアハマディネジャドに対してそう思うからであって、それ以上ではない。

 確かにコーヘンなら、世界で最も危険な国境地帯で民衆を煽動したアハマディネジャドのふざけた行為を、またあの目立ちたがり屋の「口先だけの男」が「こけおどし」のパフォーマンスをやっているにすぎない、と相手にしないだろう。

 ニューヨーク・タイムズは一方で、マイケル・オレン駐米イスラエル大使の論説も掲載。彼は、パレスチナがイスラエルをユダヤ教国家として認めるべき理由を、冷静に説得力を持って論じた。このオレンの主張は、アハマディネジャドの挑発行為で説得力を増したと言えるだろう。

パレスチナもユダヤ国家を受け入れよ

 イスラエルによるパレスチナ自治区への入植活動は、パレスチナのイスラエル国家に対する態度と同じように非建設的だ。国連決議を受けて「国家」として誕生してからもう65年近くたつイスラエルに対して、パレスチナが繰り返す抵抗運動は非建設的であり、その行為に弁解の余地はない。

 中東問題の現実的な解決策である2国家共存の概念は、イスラエルとパレスチナ両国が互いの主権を尊重し合わなければ成り立たない。両者とも、国境を越えて隣国に首を突っ込むことなど許されない。

 実際のところ、イスラエルを受け入れることはユダヤ教を認めるということだ。さもないとオレンが言うように、イスラエル人のアイデンティティー、そして民主主義を否定することになってしまう。これらを受け入れないことは、パレスチナを国家として認めながら経済封鎖を続けるのと同じだ。

 こうした破壊的なアプローチを超えなければ、和平は実現しない。だが周知のように、和平交渉はまだはるか遠いところをさまよっている。

 だからこそ、アハマディネジャドを「口先だけの男」だと軽視してはならない。レバノン南部で、これ見よがしに「イスラエル消滅」を叫んで群集を煽ったのは、単なるレトリックではない。危機を増幅させるため、またイスラエル人と同じように自由と独立国家を求めるパレスチナ人の悲しみを長引かせるために、アハマディネジャドが綿密に練った作戦に基づいて発した言葉だ。

Reprinted with permission from David Rothkopf's blog, 15/10/2010. ©2010 by The Washington Post. Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

コロンビア政府への軍事作戦は良い考え=トランプ氏

ワールド

スターマー英首相、短期政権交代は「国益に反する」と

ワールド

ミャンマー総選挙、第1回は国軍系USDPがリード 

ワールド

ウクライナ、年初から連日モスクワ攻撃とロ国防省 首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 5
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 6
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「対テロ」を掲げて「政権転覆」へ?――トランプ介入…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中