最新記事

少数民族

トルコのクルド人問題に解決の兆し

36年の争いの末にエルドアン首相とクルド労働者党オジャラン党首が交渉入り

2010年10月14日(木)15時51分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局長)

歩み寄り オジャランはクルド人の英雄的指導者だが、クルド人の考え方もより現実的になってきている Umit Bektas-Reuters

 トルコでは、分離独立を求めるクルド人の武装組織と政府軍の抗争で36年間に4万人以上の命が失われた。この長い熾烈な戦いに、ようやく終結の兆しが見えてきた。エルドアン首相が先週、クルド労働者党(PKK)のアブドラ・オジャラン党首(服役中)と交渉に入ったことを暗に認めたのだ。

 つい最近まで、PKKとの交渉は軍の猛反発を招き、政権の命取りになりかねないものだった。だが9月の国民投票で、軍権限の制限を盛り込んだ憲法改正案が過半数の支持を獲得。政府は軍に遠慮せず、交渉できるようになった。

 一方で、PKKの弱体化も目立つ。ここ3年余り、米軍の支援を受けたトルコ軍がイラク北部の山岳地帯にあるPKKの拠点を猛攻。トルコ国内のクルド人の間でも、PKK離れが進みつつある。

 問題はクルド人の自治拡大要求をどこまで認めるかだが、これについても合意形成が期待できる。トルコ経済が急成長を遂げる今、大半のクルド人は独自の言語と伝統を守れるなら、完全に独立する必要はないと考えているからだ。

 トルコの一部タカ派はいまだに、クルド文化の独自性を認めれば国家の統合が脅かされると警戒する。だが、民族的多様性を受け入れることで流血沙汰が収まるなら、取るべき道は明らかだろう。

[2010年10月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、主要中銀の金融政策の差を

ワールド

再送-メキシコ中銀、2月に0.25─0.5%利下げ

ワールド

クリントン元米大統領が退院、インフルエンザで治療

ビジネス

米国株式市場=続伸、大型・グロース株が高い 「サン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 3
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリスマストイが「誇り高く立っている」と話題
  • 4
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 5
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 6
    「自由に生きたかった」アルミ缶を売り、生計を立て…
  • 7
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 8
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 9
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 6
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 7
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中