最新記事

タリバン掃討

無人機空爆にパキスタンがキレた

NATOの空爆に前例のない検問所封鎖で対抗したパキスタン。敵と味方の区別は曖昧になるばかり

2010年10月1日(金)18時07分
アーミル・ラティフ

長蛇の列 パキスタン経由でアフガニスタン駐留軍に燃料を運ぶNATOの輸送車(バロチスタン州、09年) Saeed Ali Achakzai-Reuters

 パキスタン政府は9月30日、アフガニスタンに駐留する外国軍の主要な物資輸送ルート上にある国境の検問所を封鎖した。イスラム原理主義勢力タリバンと疑われる標的を狙ったNATO(北大西洋条約機構)による自国領内での空爆に対する苛立ちが原因だ。「NATOのトラックを1台も(北西部国境地帯の)トルカム検問所から通すなと命じられている」と、国境検問を担当する政府当局者は取材に答えた。

 アフガニスタンへの通過を認められない石油運搬車やコンテナトラックは、トルカムの検問所で長い列を作っている。パキスタン政府がNATOに対して自国領内での空爆と無人偵察機による攻撃をやめるように圧力をかけているのは明らかだ。

 トルカム検問所はNATOが兵器以外の物資をアフガニスタンに輸送するとき使用する2つの主要供給ルートの1つにある。NATO用物資の80%以上はパキスタン経由で運ばれるが、今は石油タンクローリーやコンテナトラックの多くがカイバル・バクトゥンクワ州の州都ペシャワルまで戻り、道路脇に停まっている。地元住民は停車中のトラックがタリバンの注意を集めるのではないか、とパニック状態だ。

 国境封鎖のきっかけになったのは、9月25日と27日にNATOが立て続けに実施したアフガニスタンに隣接する北西部の部族地帯への空爆。アメリカとパキスタンの当局者によれば、この2回の攻撃で武装勢力と見られる56人が死亡した。

 30日には、検問の先のパキスタン領にNATOのアパッチ攻撃用ヘリコプター2機が200メートル侵入し、国境警備兵が常駐していた拠点をミサイルで攻撃した。NATO側は兵士がライフルでヘリを攻撃したため、やむなくミサイルを発射したと説明している。この攻撃で警備兵3人が死亡し、4人が負傷した。

 パキスタン軍のスポークスマンであるアタール・アッバス少将は攻撃で死傷者が出たことは認めたが、NATOの輸送ルートの封鎖についてはコメントしなかった。CIA(米中央情報局)のレオン・パネッタ長官は30日に首都イスラマバードへ急行し、パキスタン政府に事態の収拾を働きかけた。

ペトレアス司令官の新戦略の一環か

 今回の空爆は、アフガニスタン駐留米軍司令官を兼務するデービッド・ペトレアス新NATO軍司令官の下でこの夏から始まった以前より攻撃的な新戦略の一環とみられている(前任のマクリスタル司令官は市民の犠牲を最小限にするため、空爆を控えていた)。

 今回の攻撃以前にも、北西部部族地帯のワジリスタンではかつてないほど無人攻撃機の空爆が増加。9月には22回の攻撃があり、数百人が死亡した。そのうちタリバンや国際テロ組織アルカイダの武装勢力も何人かいたが、ほとんどは一般市民だった。

 軍事アナリストは、タリバン関連組織の武装勢力ハッカニ・ネットワーク制圧のために北ワジリスタン州を解放することをパキスタン政府が拒否したため、無人攻撃機の空爆が増えたと指摘している。ハッカニは訓練を受けた推定4000人のゲリラで構成され、アフガニスタン領内でのNATO攻撃を非難されている。

「パキスタン政府の態度に米政府がいらだつのも無理はない」と、イスラマバード在住の軍事専門家ハミド・ミルは言う。パキスタン政府はずっと米軍の無人偵察機の空爆を非難してきたが、輸送ルートの封鎖はかつてない措置だ。パキスタン軍指導部や一般市民の間で高まる米軍とNATOへの怒りを考慮したのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中