日本を殺すスキャンダル狂い
安倍晋三の政権下では、松岡利勝農水相が高額の光熱水費を計上した問題で、「ナントカ還元水」をめぐるコメディーさながらの大騒動に発展。相次ぐ疑惑のさなか、松岡の自殺という悲劇的な結末で幕が下りたかと思うと、その後の農水大臣らも金銭スキャンダルに見舞われ、長くは続かなかった。
日中関係の改善という成果を挙げたにもかかわらず、安倍政権は立ち往生し、台頭する中国を牽制しつつ戦略的な関係を構築していくといった政策が損なわれた。現在に至っても、中国の最も豊かな隣人という地位を日本は最大限に利用する方法を見いだせていない。
実績に目を向けない国民
07年の参院選で自民党が惨敗したため、安倍の後任の福田康夫が社会保障制度の立て直しなどの政策を進めるのはもはや不可能だった。そして就任からわずか1年で政権を投げ出した福田の後を継いだ麻生太郎は、個人攻撃の標的になった。高級バーで酒を飲む、漢字を読み間違える、財務相の中川昭一が「もうろう記者会見」を行った──くだらない問題ばかりがクローズアップされ続けた。
その頃、世界は金融危機のさなかにあった。だが日本は麻生の些細な失言などに気を取られ続け、景気対策といった政策に目を向けようとしなかった(日本が現在、そこそこの成長率を維持しているのは麻生の景気対策によるものだと指摘されている)。
中川は、世界的な金融危機を乗り越えるため、IMF(国際通貨基金)に最大1000億ドルの融資を約束した人物でもあった。IMFのドミニク・ストロスカーン専務理事はこの決断を「人類史上最大の融資」とたたえた。
だが日本のマスコミや有権者は麻生や中川を評価しようとせず、自民党は09年の総選挙で大敗。自民党支配に終止符が打たれた。確かに、自民党政権は長く続き過ぎたかもしれない。しかし現在、鳩山がスキャンダルで失脚した自民党政治家と同じような運命をたどっていることで、1つの疑問が湧いてくる──スキャンダル(とおぼしきもの)に見舞われた政治家を完膚なきまでにたたく日本の風潮は、極端過ぎはしないか。
沖縄の基地問題であきれるほどの無知と迷走ぶりを披露した鳩山だが、そもそも彼の政治力を失わせた引き金は偽装献金疑惑や脱税疑惑といった、国家が抱える難題と比べると重要性が見劣りする問題だ。おかげで、政治主導の確立といった選挙公約時のビジョンの実現もままならなくなっている。
日本人が政治とカネにこだわる理由の1つには、何につけてもクリーンさを求める潔癖な部分があるかもしれない。また、献金を受けた有力政治家が、一部の業界や地域だけを潤すことへの不公平感もあるだろう。高度経済成長期が終わった後、有権者のこうした意識はますます強まっていったと、明治学院大学の川上和久教授(政治心理学)は指摘する。
清潔至上主義でいいのか
理屈の上では、透明性のあるクリーンな政治は有益なことだ。しかし日本では、スキャンダルが政治の最大の関心事になってしまい、国家的な問題を解決するための政策は二の次になってしまっている。検察は証拠不十分により鳩山の起訴を見送り、4月下旬に検察審査会も不起訴処分を「相当」とする判断を下したが、野党とメディアは鳩山と小沢一郎・民主党幹事長の「政治とカネ」の問題をいまだに糾弾し続けている。
朝日新聞が3月に行った世論調査によると、7月の参院選で「政治とカネ」の問題を重視して投票すると答えた人は半数以上に達した。日本がいま直面している経済や外交の深刻な問題よりも、政治とカネというスキャンダルを追及することのほうが重要らしい。