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中東ウィキペディア上に飛び火した中東紛争
「ガザ支援船攻撃」などの項目をめぐり、書き直しを狙うイスラエルと阻止を誓うパレスチナの戦争が始まった
8月半ば、イスラエルの右派団体が、誰でも編集作業に加われるネット上の百科事典ウィキペディアの編集法を指南する教室を行っていることが報道された。目的は、ウィキペディアを少しシオニスト(ユダヤ主義)寄りに書き換えることだ(例えば、5月にイスラエル軍がパレスチナ自治区ガザへの支援船団を襲撃・拿捕し、トルコ人など10数名の乗員が死亡した「ガザ支援船襲撃」の項目など)。
これを聞いたパレスチナ側の団体は黙っていない。ウィキペディアを監視し、イスラエルとは違う方向に記述を編集すると発言している。
これは、緊迫した情勢が続くイスラエルとパレスチナの間で勃発した「PR戦争」だ。イスラエルの右派団体で、ヨルダン川西岸とガザ地区の入植者組織「イエシャ会議」は、8月17日に最初の教室を開いた。青年組織「イスラエルシェリ」も、8月半ばに教室をスタートした。
イエシャ会議は先ごろ、「ベスト・シオニスト編集者」賞を設けたことも明らかにした。今後4年間で、ウィキペディアを最も「シオニスト的」に編集した人に、イスラエル上空の熱気球の旅をプレゼントするという。
どちらの団体からも代表者のコメントは得られていないが、イエシャ会議のナフタリ・ベネット理事長は、イスラエルのハーレツ紙にこう語っている。「インターネットは適切に運営されているとは言いがたい。ネット上のイスラエルの姿は、あきれるようなものばかりだ。トルコの(ガザ)支援船を例にとるといい。事件発生から最初の数時間、イスラエル側が発した情報はどこにも見当たらなかった。この数時間の間に、数百万人の人々が『ガザ支援船』をキーワード検索してウィキペディアに書かれたイスラエル批判を読んだ」
ボランティア編集者の良心が頼りなのに
一方、パレスチナ・ジャーナリスト協会のアブド・アナサール会長は8月29日、パレスチナの各種団体に徹底抗戦を呼び掛けているとハーレツ紙に語った。アナサールはこの戦いを「PR戦争」と称している。
ウィキペディアは、ボランティア編集者による公平な編集や事実確認作業に誇りをもって運営している。その概念は、「一方に偏った編集手法」とは程遠い。
ウィキペディアの中で、議論を呼びそうな重要項目の多くは注意深く編集されている。だがイスラエルの団体は、一見あまり目立たない項目にまで狙いを定めているという(例えば「ユダヤ人家族」など)。
ウィキペディアの共同創始者ジミー・ウェールズは、今のところ本誌の取材要請に回答していない。だが昨年末の電話インタビューでは、ウィキペディアは「われわれが重要な意味のあるものに作り上げようとしている媒介」であり、ボランティア編集者の良心に頼って運営されている、と語っていた。
「世界には新しいソフトウエアやテクノロジーが山ほど存在する」と彼は言った。「だがそれを悪い目的だけで使うのだとしたら、何の役にも立たないだろう」