独裁者の代理人がうごめく
独裁国家のロビイストが近年ワシントンで急増し、民主主義国の場合とは異なる問題が起きている
もはや、ごく一部の人間が業界の片隅で活動するだけの地味な世界と片付けるわけにはいかなくなった。外国政府の依頼を受けて行うロビー活動は、ワシントンの有力ロビー会社にとって大きなビジネスに成長した。
米司法省の最新の統計によると、外国政府との契約を当局に報告しているロビイストの数は、09年前半の時点で1900人。人権擁護団体によれば、抑圧的な国の政府がアメリカでロビー活動を行うために支払う金額は急増しているという。そうした国の中には、人権侵害を理由に米政府の制裁対象になっている国も含まれる。
司法省によれば、コンゴ共和国は09年上半期だけでロビー会社やPR会社などに150万ドルを支払った。世界有数の汚職国家であるアンゴラの政府が支払った金額は300万ドルを上回る。
30年以上政権に居座り続けている赤道ギニアの残忍な独裁者オビアン・ヌゲマは、年間総額100万ドルの報酬で、ビル・クリントン元米大統領の側近だったラニー・デービスが経営する法律事務所にロビー活動を依頼した(人権問題でヌゲマの姿勢が改善しなければ、実際の業務は開始しないと、デービスは主張している)。
「(アメリカの)政策決定を傍観するのではなく、その過程に影響力を及ぼすほうが得策だと、独裁国家の指導者たちが気付き始めた」のだと、人権擁護団体フリーダム・ハウスのクリス・ウォーカーは分析する。
昔は、「極悪」な国家がワシントンで大々的なロビー活動を行うことは珍しかった。第二次大戦前にナチス・ドイツの依頼を受けたロビイストがいたせいで、何十年も後まで「外国のために働くロビイスト」には負のイメージが付いて回った。日本やイギリスなどの同盟国の依頼を受けるロビイストがいても、評判の悪い独裁者の依頼を受けるのは一部のエキセントリックな人物に限られていた。
一方、中国など多くの途上国は、ワシントンでどのようにロビー活動を行えばいいか見当がつかずにいた。
転機が訪れたのは05年。中国の国有企業である中国海洋石油総公司(CNOOC)がアメリカの石油会社ユノカルを買収しようとしたが、米議会の反対で断念に追い込まれたのだ。この手痛い経験をきっかけに、中国政府はワシントンでのロビー活動を強化し始めた。
大統領候補の陣営も侵食
今では、クーデターなどにより新たに誕生したばかりの政権も直ちにワシントンにロビイストを確保するようになった。09年夏に軍事クーデターで政権を奪取してたちまちオバマ米政権に非難されたホンジュラスの暫定政権は、早速アメリカの有力ロビー会社を雇った。そのためにつぎ込んだ金額は、40万ドルを下らない。
アメリカの法律では、ロビイストが外国の政府と契約を結んだ際は例外なく公表することが義務付けられている。しかし現実には、その開示情報で分かることには限りがあるし、そもそも報告を行わないロビイストもいる。