最新記事

諜報活動

ロシア人スパイ、秘密の暗号技術

米で逮捕された露スパイ団は玩具店でも買える「見えないインク」を使って交信していた!?

2010年7月2日(金)16時41分
クリストファー・ビーム

見えるのは私だけ スパイが文字を消す手法は意外と原始的だった

 米捜査当局は6月28日、アメリカ国内で活動していたロシアのスパイ集団11人を逮捕した。彼らはどうやら、そのスパイ活動に古臭い手法を使っていたようだ。米司法省の告訴状によると、ある容疑者は別の容疑者にメッセージを「見えない状態にして」送っていたという。

 スパイが、玩具店で売っているのと同じような「見えないインク」を使うとでもいうのだろうか?

 大いにあり得る話だ。玩具メーカーが見えないインクを作る方法は主に3つあり、すべてスパイも活用している手法だ。最も知られている方法は、レモン果汁など透明に近い酸性物質を使って紙に書くというもの。そのままでは何が書かれているか見えないが、ドライヤーなどで熱を加えると書いた文字が浮き上がってくる。

 2つ目の方法は、化学反応を利用するやり方。例えば、チモールフタレインという物質は青色のインクを作るのに使われるが、このインクはすぐに透明になる。だが、これをアルカリ性の高い(ph9.3以上)物質に浸すと、再び文字が浮かび上がる。

 3つ目は、紫外線にさらすと文字が現れる液体を使う方法だ。これに使われる液体の例としては、牛乳や精液のような有機物質から合成洗剤のような蛍光性化学物質まで幅広い。

デジタル写真にテキストを埋め込み

 CIA(米中央情報局)はアメリカのスパイも見えないインクを使うとしながらも、どのタイプのインクを使っているかは明らかにしていない。とはいえ、米政府が見えないインクの製造技術に革命でも起こさない限り、現在CIAで使われているインクは玩具店に置いてあるものと大して変わらないだろう。

 98年、CIAは見えないインクの製造方法を記した第1次大戦時の文書の公開を拒んだ。同様にして、「機密インクの技術マニュアル」と題された45年時の文書も非公開のままだ。

 アメリカの研究者たちは、他国で使用されている技術をいくつか探り当ててきた。例えば旧東ドイツの秘密警察シュタージは、複写に似た手法を用いていた。2枚の白紙の間に化学物質(シュウ酸セリウム)を含んだ紙を1枚挟み、一番上の紙にメッセージを書くと真ん中の紙の化学物質が一番下の紙に移される。この一番下の紙を硫酸マンガンと過酸化水素の溶液に浸すと、文字がオレンジ色に浮かび上がる。

 見えないインクが始めて使われたのはおそらく17世紀で、アメリカでは独立戦争や南北戦争、第二次大戦でも使用された。だがその後もっと高度な暗号技術が普及するにつれ、見えないインクは廃れていった。

 高度な暗号技術としては、例えば文字を元の大きさの400分の1に縮小できるマイクロドット技術がある。他には、イメージファイルの余白部分など、別のデータにメッセージを隠すステガノグラフィー技術があり、ロシア人スパイ団が好んだのはこちらのようだ。FBI(米連邦捜査局)によると、彼らは100枚以上のデジタル写真にテキストを埋め込み、やり取りしていたという。

Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EVポールスター、中国以外で生産加速 EU・中国の

ワールド

東南アジア4カ国からの太陽光パネルに米の関税発動要

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ

ワールド

トルコのロシア産ウラル原油輸入、3月は過去最高=L
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中