日米同盟の終焉にはまだ早い
海洋覇権を目指す中国の「管理」に日米両国の協力は不可欠だ
アメリカと日本がもめている。沖縄・普天間にある米海兵隊飛行場の移設問題で、鳩山政権が曖昧な態度を取り続けたこともあり、決着が長期化。5月21日にはヒラリー・クリントン米国務長官が来日して、早期決着に向けてプレッシャーをかけた。
飛行場の県外または国外への移設を求める主張の中には、日米同盟自体への疑問もある。だが東アジア全体を見渡せば、日米同盟は今も日本にとって大きな存在意義がある。その最大の理由は、拡大する中国の軍事的脅威だ。
5月3日、東シナ海で地殻調査に当たっていた海上保安庁の測量船に、中国の海洋調査船が急接近した。現場は日本が排他的経済水域(EEZ)と見なす海域だが、中国はかねてからその範囲に異議を唱えていた。今回ついに実力行使に出た格好で、日本の測量船は事実上この海域から追い出された。
4月7〜9日には沖縄に近い公海で、中国海軍の艦艇10隻(うち2隻は潜水艦)が大規模な軍事演習を実施。これを監視していた海上自衛隊の護衛艦に、中国の艦載ヘリコプターが約90誡の距離まで接近する事態が起きた。
これを受けて北沢俊美防衛相は4月13日、「今までになかった事態」であり「詳細な分析をし、調査したい」と語った。だがNPO岡崎研究所の金田秀昭理事(元海将)に言わせれば、中国がこうした行動を繰り返すのは、これまで日本政府の対応が甘かったからだ。
では日本と中国の関係は悪化しているのかといえば、決してそうではない。多くの面で両国は、これまでになく良好な関係にある。
中国は06年にアメリカを抜いて、日本にとって最大の貿易相手国となった。日本が最近の経済危機から抜け出す上でも、中国の力強い需要が大きな役割を果たした。もちろん鳩山由紀夫首相が両国関係の改善を明言したことも、ある程度プラスに作用したはずだ。
良好に見える関係はまやかしにすぎないと、疑ってかかる向きもある。「自衛隊も人民解放軍も、両国間の緊張悪化を演出して国防予算を増やしたり、国内の支持を獲得することに利益を見いだしている」と、政治アナリストのマイケル・キューセックは指摘する。
「アジア一の大国は中国」
確かに一理ある指摘だが、それだけでは全体的な流れを説明することはできない。金田が言うように、過去10年間日本の国防政策はタカ派的とは程遠かったし、国防予算も7年連続で減っている。
その一方で中国の国防予算は急増している(ただしもともとが比較的少なかった)。また中国海軍の艦艇は、かつては寄り付かなかった海域に堂々と乗り込んでいる。
日本と中国が公海上でもめる背景には、複雑に絡み合った法的・政治的問題がある。例えば両国間には、尖閣諸島など未解決の領土問題がある。さらに天然資源の獲得と絡んだ領海問題は、もっと大きな対立点となっている。
日本も中国も、自国の産業を活性化する上でエネルギーの確保は死活課題だ。だから両国とも東シナ海の資源開発に大きな関心を示しているが、両国のEEZは重なっている。このため両国政府はEEZの境界線をめぐって激しく対立している。1詢でも相手に譲れば悪しき前例をつくることになると恐れているかのように、どちらも主張を曲げようとしない。
アメリカにとって日本が西太平洋最大の同盟国であるという事実も、不協和音の原因となっている。「中国は、今やアジアで一番の大国は日本ではなく中国だと自負しており、中国の人民もアジアの大衆もそれを認めるべきだと主張している」と語るのは、米国務省の元中国政策担当ジョン・タシクだ。
最近になって中国が、日本政府の神経を逆なでするような行動を繰り返しているのも、どこまで日本を擁護する気があるか、アメリカを試しているのだと、タシクは言う。「中国は日米同盟の亀裂を探している」