奇襲攻撃でソウルを制圧せよ
人口が多く経済活動の中心地でもある首都ソウルを人質に取っている限り、北朝鮮は韓国(と同盟国のアメリカ)に対して有利な立場で交渉に臨める。
ベクトルによると、「北朝鮮にとって、もはや朝鮮半島の統一は必要ない。ソウルを奪うだけで十分だ。ソウルを手にすれば圧倒的な強みになる」。
ベクトルは、北朝鮮が韓国への「侵攻ルート」に配備しているミサイルや特殊部隊、機動部隊は「そうした目的を持ち、その目的のために訓練されている。以前から私はそう主張してきた。ここで重要なのは、ついに一般メディアも同様な主張を載せるようになったことだ」と言う。
中央日報の記事は、北朝鮮の作戦計画変更は「米軍と韓国軍の兵器システムが改良されたことに対応するため」ではないかとする情報筋の観測も伝えている。
さらに軍事専門家の言葉も引用している。それによると、北朝鮮は03年のイラク戦争を見て、米軍には標的を正確に破壊できる兵器があり、時代遅れの武器しかない自国の軍隊では歯が立たないことを認識したという。
そこで北朝鮮は作戦を変更し、機動力のある歩兵隊を前線に増強して短期決戦を仕掛け、素早くソウルに入って首都占領の既成事実をつくろうと考えている。
同紙の取材に応じた韓国軍の高官によれば、北朝鮮は潜水艦を提供するのと引き換えにイランから新型魚雷を入手し、敵が海岸線から上陸してくるのを防ぐ計画も練っているらしい。
北朝鮮版カミカゼの恐怖
ただしアメリカ政府は、3月の哨戒艦への魚雷攻撃が本当に昨年11月の事件への報復かどうか、まだ断言できないとしている。
もちろん、動機としてはかなり説得力のある話だ。しかし本当の問題は、あれが報復行為であったとして、それが国軍の最高責任者である金総書記の許可ないし指示の下に行われたのか、それとも現場の軍指揮官の裁量の範囲で行われたのか。
韓国の哨戒艦が何らかの状況で北朝鮮の攻撃で沈没したことが明らかになった現在、場合によっては戦争になりかねない。しかしアメリカや日本、韓国、とりわけ中国は破滅的な戦争へとエスカレートさせないよう、慎重に行動しているように思える。
5月21日に訪中したヒラリー・クリントン米国務長官は、この事件や今後起こり得る北朝鮮の挑発への対抗策について、中国と重点的に話し合っている。
脱北者らの情報によれば、北朝鮮は「人間魚雷」で自爆攻撃に出る兵士も訓練しているらしい。第二次大戦中の日本軍と同じだ。
何万もの兵士を駐留させて韓国を攻撃から守っているアメリカは、41年の真珠湾攻撃の悪夢を忘れていない。どう考えてもアメリカに勝てる力はなかったのに、当時の日本軍は大胆な奇襲攻撃でアメリカを揺さぶった。
70年前の日本軍と似ているという視点は重要だ。北朝鮮のプロパガンダに詳しいB・R・マイヤーズも、新著『汚れなき民族──北朝鮮民族の自画像とその重要性』で、北朝鮮版「特攻隊」の危険を指摘している。
「北朝鮮による最悪の行為といえば、より危険な中東の勢力に核物質や核技術を輸出することだと考えられているが」と、マイヤーズは書いている。「その一方で軍事最優先の北朝鮮は、特攻精神を鼓舞するスローガンを叫び続けている。太平洋戦争の頃の大日本帝国と同じだ」
(GlobalPost.com特約)
[2010年6月 2日号掲載]