最新記事

中東

ガザ支援船襲撃とイスラエルの愚策

活動家10数人が死亡した支援船への強襲作戦は、ガザ地区封鎖の「惨めな失敗」を浮き彫りにした

2010年6月1日(火)16時54分
ダン・エフロン(ワシントン支局)

未明の強襲 地中海を航行するガザ支援船に乗り込むイスラエルの特殊部隊員(5月31日) Reuters TV-Reuters

 5月31日、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザへの支援船団を襲撃・拿捕し、10数名が死亡した流血の惨事──この事件は、ガザに対する3年に及ぶ境界封鎖が「惨めな失敗」であることを浮き彫りにした。

 イスラエルによる境界封鎖は、イスラム原理主義組織ハマスがガザを制圧した07年にさかのぼる。ねらいは、物資の出入りを制限することでハマスを弱体化させ、イスラエルへのロケット攻撃を止めさせ、ガザへの武器の密輸を阻止し、ハマスに拘束されているイスラエル兵ギルアド・シャリートを釈放させる、などだ。

 しかし、これらの目的は何一つ達成されていない。封鎖はむしろ、3年前よりも事態をさらにややこしくしただけだ。

 まず、ハマスは依然としてガザで比較的強い支持基盤を維持している。世論調査では、ハマスの支持率はここ3年で盛衰を繰り返してきたが、その本当の権力基盤を図るには、この武装組織が手数料や税金を通じていかに資金を調達しているかを見る必要がある。ハマスがガザを実効支配した07年以前、パレスチナの物資はイスラエルとガザの間の検問所を通じて入っていた。ここで徴収された関税は、マフムード・アッバス議長が率いるパレスチナ自治政府の資金源となっていた。

 だが07年以降、ガザの交易はガザとエジプトの間で違法に掘られたトンネル網を通して行われるようになった。パレスチナ貿易センターによると、毎日推定で10万リットルのガソリンと10万リットルのディーゼル燃料を含む大量の物資がトンネルを行き来する。トンネル自体はパレスチナ人ビジネスマンが運営しているが、ハマスは各トンネルからライセンス手数料を取り、輸入品から税金を徴収している。ここから得た資金によって、ハマスはさらに多くのガザ住民を取り込み、支持基盤を拡大することに成功した。

ガザ封鎖で得たのはイメージダウンだけ

 また、イスラエルは武器の密輸も阻止できていない。最近ではガザの街頭でおおっぴらに武器を目にすることは減ったが、それはハマスが武器の所有を戦闘要員のみに限定するようになったからだと、専門家は指摘する。結果として、非戦闘員のパレスチナ人は銃を高値でエジプトに売り払っているらしい。

 確かに、イスラエルへのロケット攻撃は減った。しかし、この減少は08年〜09年のイスラエルによるガザ攻撃で1400人のパレスチナ人が死亡し、民間インフラが大きく破壊されたからだと、専門家はみている。

 では、イスラエルはガザ封鎖から何を得たのか。対外的なマイナスイメージくらいだろう。国連は封鎖を団体処罰だと非難しているし、人権団体はガザの住民を飢餓寸前まで追い込んでいると言う。

 こうした批判に対して、イスラエルは例外的にガザへの運搬を許可した人道的支援物資のリストを定期的に出している。治安上の理由から、イスラエルはロケット製造に使われるセメントと化学肥料の搬入は拒否していると主張する。しかしイスラエルが搬入を禁止しているものには、アボカドや香辛料、ジャム、チョコレートといった無害なものも含まれると、人権団体は言う。イスラエル軍のある高官は、これらは贅沢品であるため、ガザへの運搬を許可する義務はないと言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口

ビジネス

スイス中銀、物価安定目標の維持が今後も最重要課題=

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星

ワールド

COP29議長国、年間2500億ドルの先進国拠出を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中