最新記事

韓国

対北朝鮮「太陽政策」は捨ててしまえ

3月の韓国哨戒艦沈没が北朝鮮の仕業と断定された今、韓国・李明博政権は強力な経済的制裁と情報戦に乗り出すべきだ

2010年5月24日(月)17時36分
クリスチャン・カリル(ジャーナリスト)

破壊 引き揚げられた哨戒艦「天安」の残骸(5月19日、ソウル近郊の海軍基地で) Lee Jae Won-Reuters

 3月26日早朝、朝鮮半島西側の黄海を航行していた韓国海軍の哨戒艦「天安」を爆発の激しい衝撃が襲った。船体が真っ二つに裂け、船は沈没。46人の乗組員が命を奪われた。

 それから2カ月近くたった5月20日、事件の原因を調べていた軍民合同調査団の最終報告書が発表された。調査団は、現場海域の海底から回収した魚雷の破片----北朝鮮海軍が用いるタイプの中国製魚雷のものだった----などを証拠として、「天安」を沈没させたのは北朝鮮の魚雷攻撃だったと断定した。

 この調査結果を受けて、事態はどう展開するのか。評論家の間では、韓国が北朝鮮に対して有効な措置を講じるのは難しいという見方が多い。今まではいつもそうだった。実際、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領の選択肢は限られている。しかし、そのなかには有効な選択肢もあるかもしれない。

 李は既に、北朝鮮に対して断固とした対抗措置で臨む意向を表明している。具体的には、過去2代の韓国政府が取ってきた対北朝鮮融和路線「太陽政策」を一掃したいと考えている。ランド研究所(ワシントン)の北朝鮮専門家ブルース・ベネットが言うように、「戦争行為を仕掛けてくる相手に、太陽政策などありえない」。

「太陽」にミサイルで応じた

 太陽政策は、金大中(キム・デジュン)元大統領の時代に始まった。何十年にわたる北朝鮮の挑発的・攻撃的行動を改めさせるためには、南北間の緊張を和らげ、人的・経済的交流を拡大することが効果的だと、金大中は考えた。

 この考えのもと、南北の政府は38度線付近のプロパガンダ用スピーカーの撤去、南北離散家族の再会、韓国から北朝鮮への大規模な投資などを推進した。金剛山観光事業と開城工業団地事業は、その代表的な成果だ。09年の時点で、開城工業団地では数十の韓国企業が工場を操業させ、およそ4万人の北朝鮮市民が雇用されている。

 しばらくの間、太陽政策は効果を発揮しているように見えた。北朝鮮は以前ほど過激な言葉を振りかざさなくなったし、南北の交流も当たり前になった(南北交流など、以前はとうてい考えられないことだった)。しかし、韓国の資本とノウハウを手にしても、北朝鮮は満足できなかったようだ。緊張緩和によりそれ以上の恩恵は、実現しなかった。北朝鮮はミサイルの発射実験と核開発計画の推進をやめなかった。

 08年に韓国の大統領に就任した李明博は、北朝鮮に無条件に寛大に接することをやめると表明した。すると案の定、北朝鮮は不快感をはっきり態度に示した。開城工業団地への進出企業に脅しを掛けたり、金剛山で韓国人観光客を射殺した北朝鮮兵の処罰を拒んだりした。

経済協力打ち切りで急所を突け

 哨戒艦沈没事件の調査結果を受けて、李はまず国連安保理で問題を提起し、北朝鮮に対する批難、新たな制裁の導入を要請することになる。

「強力な経済的措置を取れば、北朝鮮の弱点----つまり財政を直撃できる」と、米海兵隊指揮幕僚大学の教官で元軍情報将校のブルース・ベクトルは言う。ベクトルによれば、韓国政府が開城工業団地事業や金剛山観光事業などを打ち切り、アメリカ政府が北朝鮮を国務省の「テロ支援国リスト」に復活させるべきだという(例えば金剛山観光事業は、これまでに10億ドル相当の収益を北朝鮮にもたらしてきた)。

 こうした案に対しては、非現実的だという批判もある。確かに、開城工業団地には今も何百人もの韓国人従業員が働いている。もし南北の緊張がさらに高まれば、絶好の人質になるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米耐久財受注、10月はコア資本財0.2%減 予想外

ビジネス

米PCE価格、10月前年比+2.3%に伸び加速 イ

ワールド

米国が日本にミサイルを配備すれば対応する=ロシア外

ビジネス

米新規失業保険申請は2000件減の21.3万件、減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 3
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウクライナ無人機攻撃の標的に 「巨大な炎」が撮影される
  • 4
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    「健康寿命」を2歳伸ばす...日本生命が7万人の全役員…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    未婚化・少子化の裏で進行する、「持てる者」と「持…
  • 9
    トランプ関税より怖い中国の過剰生産問題
  • 10
    トランプは簡単には関税を引き上げられない...世界恐…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 10
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中