最新記事

欧州

ギリシャ危機で左翼ゲリラが活発化

緊縮財政策で高まる国民の不満に便乗し、過激派が爆弾テロに走っている

2010年5月19日(水)14時39分
イアソン・アサナシアディス

 ギリシャで反政府ゲリラの犯行とみられる爆弾テロが立て続けに起きた。緊縮財政策に対する抗議デモで揺れる同国で、ゲリラの動きが活発になっているようだ。

「今はゲリラにとって非常に活動しやすい状況だ」と非営利組織「ワールド・セキュリティー・ネットワーク」のイオアニス・ミカレトスは言う。「財政危機によって国民の不満が高まるなか、ゲリラを支持する人も増えている」

 最初の爆発は5月13日夕方、アテネのコリダロス刑務所の近くで発生。この刑務所には極左ゲリラ「革命闘争」のメンバーが収監されている。2つ目の爆発は14日の昼頃、北部の港湾都市テッサロニキの裁判所敷地内で起きた。

 政府は財政危機を乗り切るためにEUとIMFから総額1100億ユーロの融資を受けるのと引き換えに、年金改革など財政緊縮策の導入を決めた。これに反対する市民のデモでギリシャは揺れている。

「正義の味方」とみる市民も

 しかし一部の過激な組織がデモに紛れ込み、銀行に火炎瓶を投げ込んだり、警官隊と衝突を繰り返したりしていることに対して、市民の評価は分かれている。過激派を非難する人もいれば、「正義の味方」とみる人もいる。市民のデモ参加者を減らすために、政府の手先が暴動をあおっているという見方もある。

 爆弾テロの犯行声明は出ていないが、ギリシャ当局はここ10年で台頭してきた新しい過激派の犯行とにらんでいる。警察官が15歳の少年を射殺したことをきっかけに広がった08年12月の暴動以降、過激派の活動は活発になっている。
「革命闘争」の存在が明らかになったのは03年。30年に及ぶテロ活動で多くの政治家らを殺害してきた左翼ゲリラ「革命組織11月17日」が壊滅した直後だった。「革命闘争」は07年にアテネの米大使館にロケット弾を撃ち込んだとされる。

 今回の爆弾テロはトルコのエルドアン首相のギリシャ訪問で、両国の緊張緩和の機運が高まるタイミングに合わせるようにして起きた。警察当局は首相訪問とテロは無関係としているが、一部メディアは緊張緩和の動きをトルコへの「屈服だ」と批判。財政危機にあえぐギリシャが経済協力のためにトルコとの関係改善を進めることへの民族主義的な怒りが、テロの背景にあったのかもしれない。

GlobalPost.com特約)


[2010年5月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、エヌビディア決算無難通過で

ワールド

米天然ガス生産、24年は微減へ 25年は増加見通し

ワールド

ロシアが北朝鮮に対空ミサイル提供、韓国政府高官が指

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、欧州PMIでユーロ一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中