最新記事

アフガニスタン

タリバンも「増派」、決戦秒読み

米軍の3万人増派に向けて、タリバンにも新兵が続々と加入──双方が衝突する日は近い

2010年4月27日(火)17時10分
ロン・モロー(イスラマバード支局長)、サミ・ユサフザイ(イスラマバード支局)

士気高々 アフガニスタン・クンドゥズ州西部チャルダラでドイツ軍車両を攻撃したタリバン兵(4月3日) Wahdat-Reuters

 毎晩明け方まで、年代物の自動車と小型トラックの車列がパキスタン北ワジリスタンの無法部族地帯、ダッタヘルを進んでいく。目的地はアフガニスタン。車両は米軍と戦う新しいジハード(聖戦)要員で溢れかえっている。

 彼らのほとんどは、ダッタヘル郊外にある複数の訓練・宿泊施設からやって来る。地元民によると、こうした郊外の大部分はアフガニスタンとパキスタンのイスラム原理主義勢力タリバンが支配している。「この辺では、1つの家族から少なくとも男1人はアフガニスタンに向かっている」

 これはタリバンが意図的に行なっている「増派」とみられる。今回の増派は、雪解けの時期を見計らって繰り返し行なわれてきた過去の増派よりも大規模だ。目的はアフガニスタン南部のタリバンを増強すること。新しい戦闘員らは、バラク・オバマ米大統領が数カ月後にこの戦闘地帯に新たに送り込む3万人の米軍兵士と対峙することになる。

 彼らだけではない。さらに、冬をパキスタン北西部やパキスタン南西部のバルチスタンの難民キャンプで過ごしたり、パキスタン一帯に点在するマドラサ(イスラム神学校)で宗教的、イデオロギー的な訓練を受けた新たな戦闘員も列を成している。タリバンの増派は、おそらく今年2月にアフガニスタンのマルジャで米軍率いる連合軍との戦いでの敗北を繰り返さないためのようだ。

タリバン兵は20分でリクルート可能

 パキスタン軍は、アフガニスタンにジハード要員が流出するのを阻止するため、国境に常備軍と民兵合わせて10万人を配置して治安に当たらせているという。国境沿いにある900カ所以上の前哨基地と道沿いの検問所を守っている。

 だが、パキスタン軍の努力は報われてはいないようだ。パキスタン北西部で国境近くの町ミラムシャーとミールアリでは、タリバン兵が幅を利かせているらしい。これらの場所では、タリバンはハエが飛び交うレストランや粗雑なインターネットカフェでたむろし、アフガニスタン警察から盗んだフォードの小型トラックを乗り回し、堂々と武器を持ち歩く光景が見受けられる。すべてが、パキスタン軍の大規模な陣営の目と鼻の先で行なわれている。

 アフガニスタンのジハード要員を集めるのは難しくないと、匿名を条件に本誌の取材に応じたタリバン幹部は言う。地域に米軍が駐留していること、そしてテロ容疑者に対する米軍の無人機攻撃が増えていることに憤慨している教養も職もない部族地帯の若者たちは、タリバンによるプロパガンダの格好の人材だ。

「20分もあれば、今すぐ戦闘員になれる若者を確保できる」とこの幹部は言う。アフガニスタン南部ヘルマンドの軍閥指導者アブドゥル・マリクは、新たな戦闘員たちが地元戦闘員の士気を高めていると言う。「彼らの存在は我々の士気を大きく鼓舞してくれる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルとシリアが停戦に合意=駐トルコ米大使

ワールド

米国とベネズエラが囚人交換、エルサルバドルが仲介

ワールド

パンデミック条約改正案、米国が正式に拒否 「WHO

ワールド

米でステーブルコイン規制法が成立、トランプ氏が署名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 2
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞の遺伝子に火を点ける「プルアップ」とは何か?
  • 3
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 4
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 5
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 6
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 7
    日本では「戦争が終わって80年」...来日して35年目の…
  • 8
    【クイズ】世界で1番売れている「日本の漫画」はどれ…
  • 9
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 10
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中