中国外交の「仁義なき戦い」
中国政府の一貫しない対米政策は、政府内部で強硬派と穏健派が対立している証拠だ
暗中模索 アメリカとの関わり方とめぐる中国の混乱は続いている(09年10月の米中合同商業貿易委員会) Aly Song-Reuters
アジア問題を担当する米政府高官2人が今週中国を訪問し、国務省が言うところの米中の「緊張関係」が修復に向かい始めたと歓迎された。だがオバマ政権内部の当局者たちの眼には、ここ数週間の出来事がアメリカへの対応に中国政府が内部で苦慮していることを示す証拠に映った。
ジェームズ・スタインバーグ国務副長官とジェフリー・ベーダー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長が訪中した第一の目的は、イランへの新たな制裁に協力するよう中国政府を説得すること。今回の会談は、アメリカが台湾への武器輸出を決め、オバマがチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と面会した直後のことだった。
オバマ政権はこの2つの出来事が中国を刺激するのを最小限に抑えようと努めた。複数の米外交当局者が語ったところでは、中国の反応はほぼ予想通りだったという。中国は報復措置として一部の軍事交流をキャンセルする一方で、米原子力空母ニミッツの香港寄港を予定通り許可した。2月初めに予定されていたスタインバーグの訪中は抗議の一部として延期されたが、中国は結局わずか数週間後にスタインバーグを歓迎した。
この2つの外交問題に続いて中国が示した態度は、共産党内部で自信を高める強硬派と影響力が衰えつつある穏健派の間で意見対立が激化している証拠かもしれない。
「どう対処すべきか自信を失った中国外務省が、強硬派に対して最後の抵抗を試みているように見える」と、オバマ政権のあるアジア担当高官は言う。「中国政府内で勢力を増す強硬派が『我々の出番だ』と叫ぶ一方で、アメリカについて『まだ見限るべきではない。しばらくは彼らが必要だ』と言う者たちもいる」
台湾への武器輸出とダライ・ラマとの面会に対する中国政府の反応は断続的だった。前者に対しては控えめで用心深い反応を示し、勢力拡大中のネチズンなど国内世論から批判されると後者に対してより強硬に反応した----と、この当局者は説明する。
緩やか過ぎる中国の「チェンジ」
この件に詳しいほかのオバマ政権当局者も、中国の官僚組織はオバマ政権への対応を模索するなかで激しく揺れ動いており、強硬派と穏健派が最善策をめぐって争っているとみている。
「中国政府は現在、対米関係のあらゆる懸案事項に同時進行的に対応するのに苦心している。あまりに多くの案件を抱え込んでいるので、事が複雑になっている」と、この高官は説明する。「政府組織の間で火花や爆発が見える」
例えば、アメリカが台湾への武器輸出を発表するに当たって中国は米企業に制裁を加えると脅したが、これまでのところその後の動きは何もない。「単なる口先だけのことだったのか、これからやろうとしているのか」と、この高官は首を傾げる。「結局どういうことなのか、まだ何も見えない」
アジア専門家の中には、中国の政府組織内で何が起きているのかはそれほど重要ではないという見方もある。
「中国研究はますますかつてのソ連研究に似てきている。新しいクレムリノロジー(ソ連研究)だ」と、保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」研究員のマイケル・オースリンは言う。「重要なのは過程ではなくその結論だ」
オースリンによれば、中国は地球温暖化や為替の公平性、サイバーセキュリティー、人権問題の解決に積極的になったわけではないし、オバマ政権の対中政策も世界の大国として成熟するよう圧力をかける明確で包括的なメッセージを欠いている。
「みな『茶葉占い』に時間をかけ過ぎていて、カップの中にそれほどお茶がないことに気付いていない」と、オースリンは言う。