最新記事

鳩山政権

「革命」が色あせるとき

歴史的政権交代は果たしたものの改革は難航。優柔不断なインテリ首相に迫る「細川シンドローム」の影

2010年2月26日(金)13時21分
ポール・スカリーズ(テンプル大学日本校・現代アジア研究所客員研究員)

 与党・自民党の支持率低迷と、利己的で何事にも計算ずくの小沢一郎に助けられ、野党が選挙に大勝し政権を握る。経験不足で理想主義者の党首は首相となり、日本に改革の旗印を掲げる。寄せ集めの新しい連立政権に海外メディアは熱い視線を送り、国内の内閣支持率は空前のレベルに達する。そしてある言葉が何度となく繰り返される。「革命だ!」

 しかし熱狂はやがて失望に変わる。気付けば首相は政治資金スキャンダルの渦中におり、内閣支持率は急落。省庁間の協議が長引き、規制緩和は先が見えず、財政も歳出削減を迫られている。内閣の政治課題は進まず、連立与党間で議論が紛糾。意欲を失った首相は、冷たい国内メディアとしびれを切らした国民、行き詰まった法案に追い詰められ、屈辱のなかで辞任する。そして自民党復権への長い道のりが始まる──。

 鳩山由紀夫首相の民主党が率いる現在の連立政権のことではない。「細川シンドローム」の話だ。1955年以降初の非自民党政権として、細川連立政権は93年8月に発足した。首相の細川護煕は非現実的な抽象論を好み、それが政権の誕生につながったが、同時に政権を崩壊させた。

 細川連立政権の急速な盛衰は、戦後日本における機会喪失の代表例といっていい。その誕生当初は歴史的と歓迎されたが、結局わずか1年足らずで総辞職に追い込まれ、期待外れの結果しか残せなかった。

優柔不断なインテリ

 2010年も歴史は繰り返すのだろうか。状況を見る限り、その可能性が高まっている。

 鳩山政権の支持率は09年9月の発足当初は75%(細川政権は発足当初72%)あったが、同年末には47%に低下した(細川政権は50%)。93年から94年当時と同じく、円高傾向で輸出は低迷。資産価値は下落し、対GDP(国内総生産)比で世界最大の債務を抱えている。デフレが再燃しているというのに、日本銀行は17年前と同じくらい及び腰だ。

 さらに専門家の予測では、今年1〜3月も経済成長率は引き続き低迷する。不況が長引けば、民主党が単独過半数を狙う極めて重要な夏の参院選の前に、鍵を握る地方の選挙区で失業と自己破産が増えてしまう。

 こうした時期に政権与党は普通、「我慢」を呼び掛ける。船長が潮流の変化をコントロールできないのと同じで、政府も短期の景気循環をコントロールできない。しかし有権者はそうは考えない。

 政府内の誰かをスケープゴートにするか、政府が短期の景気循環をコントロールできるふりをしなくてはならないが、そのどちらもできていない。鳩山はリーダーシップを示さない、優柔不断なインテリのままだ。

 こうした状況で「細川シンドローム」に感染すれば、深刻な事態になりかねない。具体的な青写真のない「ビジョン」とやらの波及効果を何年も悠長に待つ有権者など、まずいない。約束された消費者福祉の向上や雇用創出、所得増加の恩恵にいつ、どこで、どんなふうにあずかれるのか確約を求める人がほとんどだ。

 細川の場合、このジレンマは規制緩和という言葉に集約されていた。「規制緩和のメリットがいつ、どこで、どんなふうに生じるかはまだ分からないが、規制緩和はやる。皆さんの暮らしはいつか良くなる」と、細川は有権者に請け合った。「いつか」だ。

残された時間は僅か

 鳩山の民主党も「庶民」を大事にすると主張している。規制緩和にあまり関心はないようだが、有権者に対し反ケインズ、反自民、反官僚主義の言葉を繰り返している。税収は減り、歳出は増えているが、鳩山は自民党の「無駄遣い」方式に戻ることを拒否しているため、今年、公共事業によって雇用が増えることはないだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

シティ、第3四半期の投資銀手数料収入は20%増見通

ビジネス

米オラクル第1四半期、売上高が予想上回る クラウド

ワールド

北朝鮮、核兵器を「幾何級数的に増やす」 金氏が演説

ワールド

トランプ氏、勝利なら「腐敗」選管投獄 ハリス氏陣営
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    ロシア国内の「黒海艦隊」基地を、ウクライナ「水上ドローン」が襲撃...攻撃の様子捉えた動画が拡散
  • 3
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単にイヤリングをつけるだけ」
  • 4
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…
  • 5
    非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙…
  • 6
    歯にダメージを与える4つの「間違った歯磨き」とは?…
  • 7
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 8
    伝統のカヌーでマオリの王を送る...通例から外れ、王…
  • 9
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 10
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 6
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 7
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 8
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 9
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 10
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンシ…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中