対イラン制裁、オバマの切り札はこの男
イランの態度にしびれを切らしたアメリカが、同国経済を牛耳る革命防衛隊を狙い始めた。辣腕を振るうのは財務次官スチュアート・レビーだ
狙い定めて オバマがブッシュ政権から続投させたレビーが動きだす Kim Kyung Hoon-Reuters
きゃしゃな体に、温厚な人柄のスチュアート・レビーは、マフィアのボスとはおよそ共通点がなさそうに見える。慇懃無礼な態度で恫喝することを職業にしていると言われると、とんでもないとばかりに鼻で笑う。
しかし恫喝とは言わないにしても、世界の金融機関や企業を「説得」し、核問題を抱えるイランや北朝鮮とのビジネスを打ち切らせるのが仕事であることは事実。そういう水面下の「説得」活動で成果を挙げてきたからこそ、レビーは現在の地位にある。
レビーはブッシュ前政権に引き続いて、オバマ政権でもテロ・金融情報活動担当の財務次官を務めている。前政権からの残留組としては、ロバート・ゲーツ国防長官に次ぐ高い地位の政府高官だ。
レビーは、アメリカの国民にはほとんど名前を知られていない。しかしイラン政界では恐れられ、憎まれている。「(イランの)政府当局者は誰でも、レビーの名前を正しく発音できる」と、イラン情勢に詳しいヨーロッパのある外交官は言う。
実際、09年3月にレビーが財務次官に再任されると、イラン政府は激しく反発。イランの経済財務相は、レビーを「アメリカ政府内のシオニスト(ユダヤ民族主義者)の手下の1人」と攻撃した。
レビーの再任は、ブッシュ政権より友好的な態度で接するというバラク・オバマ新大統領の約束に矛盾する行動と見なす──イラン政府は水面下のルートを通じて、このようなメッセージをアメリカに伝えてきたと、消息筋は言う(外交上の微妙な問題であることを理由に匿名を希望)。
レビー自身も、イランに対する関与型政策を唱えるオバマから留任を要請されて驚いたと言う。最初はその要請を受け入れることを躊躇したほどだった。
さあ、出番がやって来た
レビーはこれまでオバマ政権のイラン政策の表舞台に立つことはなかった。しかしオバマは、イランに「手を差し伸べる」アプローチだけでは望ましい結果を得られないと考えるようになった。
何しろオバマ政権の設定した09年末の交渉期限が迫ってきても、イラン政府は核開発計画の放棄に関して譲歩の姿勢をほとんど見せなかった。おまけに、新たに10カ所のウラン濃縮施設を建設するとまで言ってのけた。
レビーの出番がまたやって来た。財務省のレビーが中心になって、イランの経済を徹底的に締め上げていくことになると、オバマ政権のある高官は言う。
この計画の主な標的の1つがイラン革命防衛隊だ。イランの国と経済のかなりの部分を支配下に置いている組織である。09年6月の大統領選の開票結果をめぐり市民の抗議デモが活発化して以来、革命防衛隊は民主化運動を弾圧し、民主活動家を殺害した組織として知られるようになった。
09年9月には、革命防衛隊系の共同企業体が78億ドル相当で国営のイラン電気通信会社の株式の過半数を取得。これにより、革命防衛隊はイランの電話とインターネット網を支配し得る立場を手にした。革命防衛隊は、イランの金融業とエネルギー産業にも影響力を強めている。
米財務省のレビーのチームは、こうした動きに監視の目を光らせている。「革命防衛隊はイラン経済における支配力を強め、ほかの企業をはじき出し、入札なしで契約を結ぶなどの特別待遇を受けている。その結果、国内で反感を買いかねない立場にある」と、レビーはあるインタビューで述べたことがある。
取引企業に圧力をかける
革命防衛隊はイスラム革命を擁護する「潔癖な盾」というのが建前だが、その司令官たちは、投資により莫大な資産を築いていると考えられている。特にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイなどの近隣諸国に投資するケースが多いようだ。