最新記事

陰謀論

ハイチ地震はアメリカの大量破壊実験?

外国メディアを飛び交う陰謀論は天才的すぎて、オバマ政権だけでは実行不可能

2010年1月28日(木)17時16分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学国際政治学教授)

噂の震源は? テレビで「アメリカは援助を名目にハイチを占領しようとしている」と発言したチャベス Reuters

 外国の報道機関は、アメリカの主流メディアが怖気づいて取り上げないニュースも報じてくれるのでありがたい。ハイチ大地震がアメリカの陰謀だというもそうだ。陰謀説は今や世界中を駆け巡っている。騒ぎの元は誤った噂にすぎないようだが、そんなことは問題ではない。アメリカの主流メディアも早く、政府に厳しい質問をぶつけ始めて欲しいものだ。

 この陰謀は、オバマ政権だけではとても思いつかないほど見事なものだ。「邪悪な悪の同盟」(コメディドラマに出てくる悪のエリート集団)や、闇より太陽を好む「あべこべバンパイア」の協力も仰いだに違いない。

 だが動機は何か。最貧国のハイチに地震を起こし、そこへ大規模な救援部隊を送り込むことでアメリカに何のトクがあるのだろう。これについても、さまざまな理論が飛び交っている。

 ベネズエラのウゴ・チャベス大統領は、ハイチ地震はアメリカがイランに使用する目的で開発した地震兵器の実験だとほのめかした。凄い洞察! もっとも、そうした地震でイランの核施設を破壊できるかどうかは不明だ(少なくとも、2003年のイラン南東部地震では破壊できなかった)。

「アメリカを1つにまとめるため」説も

 また、カナダのグローバル化研究センターのケン・ヒルデブラント博士の解説も天才的だ。


 あなたもきっと私の疑いを察したことだろう。これが事実だとは言っていない。だが、可能性として考慮はしてみるべきだ。

 これ(ハイチ大地震)は、これ以上ないタイミングで起きた。オバマ大統領の支持率は急落しているし、保険会社に補助金を与えるような医療保険改革法案をめぐって国論は真っ二つに割れていた。

 人道援助を通じてビル・クリントン元大統領やジョージ・W・ブッシュ前大統領とオバマが連帯し、アメリカは一つの大きくて幸せな家族だと国民に信じ込ませるのに、これ以上いい方法があるだろうか。


 大いにあり得ることだ。なぜなら近年自然災害は、アメリカ大統領の人気回復に大いに貢献してきたのだから(ハリケーン・カトリーナの災害対策で、ブッシュがどれだけ称賛された思い出してほしい)。
 陰謀が面白いのは、首謀者たちが適度に賢くて適度にバカでないと成功はおぼつかないことだ。

 さて、この騒ぎはいったいどこまでエスカレートするのだろう。

<追記>
 たった今、在米ベネズエラ大使館の戦略通信顧問から以下のメッセージを受け取った。


 あなたのブログの記事の内容について、はっきりさせておきたい。ウゴ・チャベス大統領はアメリカの武器がハイチ地震を起こしたという理論とは何の関係もない。この説を主張したのは、国営だが独立して運営されているテレビ局のウェブサイトのブロガーだ。その後、チャベス大統領がその説に同意し、自らも口にしたかのような誤解が生じたが、事実無根である。チャベス大統領はハイチで米軍のプレゼンスが増加することには反対したが、地震の原因が疑わしいと言ったり、そのような陰謀説に加担したことはない。


Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 26/1/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、WTOでトランプ関税を非難 「一方的で世界貿

ワールド

中国、ウクライナ和平努力を支持 ガザは「交渉材料で

ワールド

新興国市場への純資金流入、1月は約354億ドル=I

ビジネス

米経済は良好、物価情勢の進展確認まで金利据え置く必
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 2
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 3
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防衛隊」を創設...地球にぶつかる確率は?
  • 4
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 7
    祝賀ムードのロシアも、トランプに「見捨てられた」…
  • 8
    ウクライナの永世中立国化が現実的かつ唯一の和平案だ
  • 9
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン...ロシア攻撃機「Su-25」の最期を捉えた映像をウクライナ軍が公開
  • 4
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 5
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 8
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中