最新記事

イスラエル

ユダヤ人入植地、撤去後の現実

2009年12月21日(月)14時30分
アルフ・ベン

 イスラエルの主要都市テルアビブから南方に向かう幹線道路を車で走ると、同じ形をした赤い屋根の家が何百戸も見えてくる。

さらに近づくと、そこが仮設住宅の町であることが分かる。この町ニツァンに商店は数えるほどしかない。駐車場の壁には「グシュ・カティフに帰るぞ」と書かれている。グシュ・カティフはパレスチナ自治区ガザにかつてあったユダヤ人入植地。05年にアリエル・シャロン首相によって撤去された。

 シャロン政権はガザとヨルダン川西岸北部にあった25の入植地から約9000人を移住させた。このうち80%は集団でコミュニティーをつくることを希望。そのためニツァンのような町が生まれた。

 仮設住宅は09年春までに取り壊され、ニツァンはトウモロコシ畑に戻される予定だった。だが今も元入植者の多くがここに住んでいる。理由は政府の対応が悪いからだとも、元入植者が無理な要求をしているからだともいわれる。

 ニツァンの現状は新たに入植地撤去の計画を立てる際の参考になりそうだ。今でこそ入植地の建設凍結が問題となっているが、それをクリアしたら今度は入植地撤去が課題になるかもしれない。どのように撤去を進め、元入植者の精神的苦痛や社会復帰をどう支援するのか。

 今後、撤去の対象となるのは、入植に対して強い宗教的使命感を持つ住民の多いヨルダン川西岸の入植地になるだけに困難が予想される。だが05年の強制撤去から分かるように、いざとなれば国家は国民の使命感をねじ伏せられる。

 入植地の撤去は困難かもしれないが、不可能ではない。

[2009年12月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

著名投資家バフェット氏、慈善団体に53億ドル相当寄

ビジネス

米PCE価格指数、5月前年比+2.6%に鈍化 利下

ビジネス

米PCEデータ、金融政策が「十分に引き締め的」な証

ビジネス

米消費者需要は堅調、「フロス」ではない=リッチモン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:小池百合子の最終章
特集:小池百合子の最終章
2024年7月 2日号(6/25発売)

「大衆の敵」をつくり出し「ワンフレーズ」で局面を変える小池百合子の力の源泉と日和見政治の限界

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ミラノ五輪狙う韓国女子フィギュアのイ・ヘイン、セクハラ疑惑で3年間資格停止に反論「恋人同士だった」
  • 3
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地...2枚の衛星画像が示す「シャヘド136」発射拠点の被害規模
  • 4
    ガチ中華ってホントに美味しいの? 中国人の私はオス…
  • 5
    貨物コンテナを蜂の巣のように改造した自爆ドローン…
  • 6
    日本の夫婦が生む子どもの数は70年代以降減っていない
  • 7
    『バッドボーイズ』最新作が世界的ヒット! 「出禁」…
  • 8
    米アマゾン、格安セクション開設へ TemuやSHEINの商…
  • 9
    衛星画像で発見された米海軍の極秘潜水艇「マンタレ…
  • 10
    「こうした映像は史上初」 火炎放射器を搭載したウク…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地...2枚の衛星画像が示す「シャヘド136」発射拠点の被害規模
  • 3
    「大丈夫」...アン王女の容態について、夫ローレンス卿が語る
  • 4
    ミラノ五輪狙う韓国女子フィギュアのイ・ヘイン、セク…
  • 5
    ガチ中華ってホントに美味しいの? 中国人の私はオス…
  • 6
    衛星画像で発見された米海軍の極秘潜水艇「マンタレ…
  • 7
    スカートたくし上げノリノリで披露...米大物女優、豪…
  • 8
    貨物コンテナを蜂の巣のように改造した自爆ドローン…
  • 9
    偉大すぎた「スター・ウォーズ」の看板...新ドラマ『…
  • 10
    ロシア軍部隊を引き裂く無差別兵器...米軍供与のハイ…
  • 1
    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に
  • 2
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 3
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間
  • 4
    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…
  • 5
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 6
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 7
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド…
  • 8
    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…
  • 9
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 10
    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中