最新記事

南米

ベネズエラ戦争準備はチャベスの幻惑

2009年12月17日(木)13時13分
マック・マーゴリス(リオデジャネイロ支局)

 経済の荒廃が進むなか、ベネズエラはチャベスが唱える「21世紀の社会主義」国家から「熱帯版20世紀の共産主義国家」へ変貌している。食料や電力が不足し、物価は急上昇し、調子がいいのは演説だけ。インフレ率は中南米地域で最悪の29%に上っている。

再選支持者はわずか17%

 なかでも深刻なのが停電だ。アンデス山脈とアマゾンの熱帯雨林とカリブ海に国土を囲まれ、石油資源も豊富なベネズエラはエネルギー大国になる資格は十分。世界で最も広大な水力発電網を持つ国の1つでもある。

 なのに電力不足は解消されず、07年以降、全国的停電が6回発生している。一部の農村地帯では1日4時間電気が止まり、各地の工場は電力や水をやりくりしながら操業しなければならない状態だ。

 電力不足と水不足の直接の原因は干ばつだが、真の元凶はオイルマネーがあふれ返っているにもかかわらずインフラ投資を怠っていることだ。現在、総工費46億ドルを掛けて2200メガワット規模の発電所を建設しているものの、操業開始は当初の予定の10年から14年にずれ込んでいる。

 さらに気になるのは、チャベスが経済の国家統制を強化し、革命の名の下にエネルギー企業や公益企業の国有化を進めるのに合わせてインフラの不備が露呈しているという事実だ。

 国民はもはやある程度の不便には慣れている。政府の手厚い補助金のおかげで、ベネズエラではガソリン価格が1ガロン(約3・8リットル)=17セントと激安。そのせいで道路はいつもひどい渋滞だ。

 だが最近は窮乏生活に拍車が掛かる一方で、卵も牛乳も出回らず、政府は輸入が途絶えたコロンビア製の医薬品の代替品探しに奔走する。国内に膨大な量の天然ガスが眠っているのに、インフラ不備やガス田開発資金の不足のためコロンビアから天然ガスを輸入する羽目にも陥っている。

 干ばつで水力発電用の水源が枯れ、停電が相次ぐなか、近頃のチャベスは電力や水を無駄遣いする「エリート」を批判する。「30分も鼻歌を歌いながらシャワーを浴びる者がいる。これが共産主義と言えるか」。チャベスはある閣議でそう説教したという。

 先日は国民に「入浴は3分以内に済ませよ」と呼び掛け、国営テレビでシャワーの代わりにヒョウタンを使って水浴びする方法を実演。首都カラカスで今、貯水タンクや自家発電機が爆発的に売れているのも当然の成り行きだろう。

 国民にしてみれば、もはや我慢のならない状況だ。10月下旬、ベネズエラの独立系調査会社データナリシスが行った世論調査では、チャベスの支持率が初めて50%を割り込んだ。

 今すぐ大統領選が実施された場合、チャベスに投票すると答えた人の割合はわずか17%強(9月の調査では31%を超えていた)。経済を立て直す手腕のないチャベスが、臨戦態勢で国民の目をごまかそうと考える理由はここにある。

 だが「悪魔の手先」を退治して支持を取り戻そうとしても、今度ばかりは無理かもしれない。データナリシスの世論調査によれば、コロンビアへの宣戦布告に反対する人の割合は80%近くに上る。

 チャベスが国境地帯に兵士を派遣した今、その数がさらに増えていても不思議はない。    

[2009年11月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中