3度目の大幅増派に飛び付くな
言うまでもなく、戦略面で問われるのは、そもそもなぜワナトに基地を置いたかだ。軍事専門家のトーマス・リックスによれば、ワナトは人口の少ない山岳地帯に位置する。よそ者が敵視されがちな寒村に基地を設置するのは、「ハチの巣にこぶしを突っ込むようなもの」だという。
実際、マクリスタルはその後、ワナトの基地を撤収。1年後に現地を訪れたワシントン・ポスト紙の記者グレッグ・ジャフィーは、「危険な地域に小規模で脆弱な基地を維持するより、そうした地域をタリバンに明け渡すほうが(戦略的に)有効だ」と結論づけた。
ジャフィーがワナトから10誅ほどの地点に駐留する米軍の指揮官たちから聞いた話では、「この数週間、昨年米軍を攻撃したタリバンの指揮官たちと、村の住民の間で対立が高まっている」という。つまり、住民の信頼を得にくい僻地には、タリバンの基地を設置させるほうが得策だということだ。そしてこれまでとは逆に、米軍主導の多国籍軍が外部からその基地に奇襲攻撃をかければいい。
現実的な折衷案もある
増派を訴える人々は、武装勢力との戦いを応用物理学のように考えているようだ。マクリスタルのチームは数学的な計算で正解を導き出したと言わんばかりで、4万人の派兵か、さもなければ武装勢力は抑え込めないという姿勢だ。しかしこれまで増派が行われるたびに、米軍高官が「これでようやく武装勢力を鎮圧できる」と言ってきたことを考えると、彼らの主張がばかばかしく思える。
増派を決定する上で、最も重要な判断材料は、今後の米軍が果たすべき役割、そしてアフガニスタン全土の何割程度を掌握すればいいかだ。「主要な人口密集地には(武装勢力との戦いを重視する米中央軍司令官のデービッド・)ペトレアス案を採用し、他の地域には(テロ組織の拠点を集中的にたたくという副大統領のジョー・)バイデン案を採用したらいい」と、リックスは提案する。
これは賢明で現実的な折衷案だろう。この方法を選んだ場合でも多少の増派は必要かもしれないが、現在の多国籍軍の兵員10万人で十分かもしれない。
オバマは優柔不断の汚名返上を急がずに、これらの案や他の選択肢を慎重に検討すべきだ。
[2009年11月 4日号掲載]