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ヨーロッパベルリンの壁崩壊20年目の成績表
新憲法のリスボン条約発効にもこぎつけた節目の年、ヨーロッパという「大国」の前途はこれまでになく明るい
高齢化が進み末期症状にある大陸──ヨーロッパというとそんなイメージを連想しがちだ。専門家や政治家でさえ、EU(欧州連合)は加盟国同士の対立で自らを弱体化させ、その規模と富をハードパワーに変えていないと嘆く。ミリバンド英外相は10月27日、「ヨーロッパ全体として、加盟国の合計よりも存在感がないことが問題だ」と足並みの乱れを批判した。
だがこうした主張は現実を見誤っている。11月9日にベルリンの壁崩壊から20周年を迎えるヨーロッパは、これまでになく結束し、繁栄し、安定している。
EU加盟国は、世界のなかで最も器用にグローバル化を進めてきた。幅広い社会福祉サービスを維持しつつ、市場を開放することにも成功した(ドイツだけで中国に匹敵する輸出規模がある)。
世界経済危機も予想以上にうまく乗り切ってきた。今やヨーロッパの失業率はアメリカよりも低く、フランスとドイツはアメリカより早く不況を抜け出した。
人口5億人を超えさらに拡大中
政治面でも成功している。冷戦終結以降、EUの面積は2倍に拡大し、人口は来年にも5億人を超えそうだ。さらに今年は、EUの新憲法となるリスボン条約が加盟国27カ国すべてで批准されるという重要な節目の年となった。
これによって、全会一致の決議が必要とされる分野は縮小され(つまり特定多数決で決定できる領域が増える)、EU大統領という新しいポストもつくられる。
現在、さらに6カ国がEU加盟を目指している。EUの拡大は、ヨーロッパの影響力を広める武器であるソフトパワーの源にもなっている。
トルコはEUに加盟するため、過去20年間さまざまな改革を行ってきた。アルバニアは今年7月、EUの人権保護基準を満たすため、イスラム教国として世界で初めて、同性婚を認める法律の整備に着手すると発表した。
近隣諸国以外にもEUは影響力を拡大している。EU加盟国の兵士が10万人、外交関係者が6万人、そして数多くの援助活動関係者が世界各地で活躍している。21の加盟国はアフガニスタンにも派兵しており、犠牲者数は同盟国の3分の1を占める。
つまりヨーロッパは既に「大国」としての地位を築いている。確かにEUの歩みは不格好なくらいゆっくりとしている。だがそのプロセスは優れた成果を挙げており、ヨーロッパの前途はこれまでになく明るい。
[2009年11月11日号掲載]