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ロシアがかばう「死の商人」

Will the 'Merchant of Death' Walk?

軍上層部に追求が及ぶのを恐れるロシアが、武器商人のアメリカへの身柄引渡しを妨害している

2009年10月20日(火)17時08分
マイケル・イジコフ(ワシントン支局)

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 悪名高いロシアの武器商人ビクトル・ボウト(42)が間もなくタイの刑務所から釈放されるのではないか――。アメリカの情報関係者はそんな憶測にますます神経を尖らせている。釈放を促す一因となっているのは、ボウトの身柄がアメリカに引き渡されて武器密輸の罪で起訴されないよう、ロシアが圧力をかけていることだ。

 ボウトはロシア軍の元士官で、アメリカのテロ対策当局や情報当局からは究極の「国際犯罪人」と見なされてきた。イスラム原理主義組織タリバンやリベリアの独裁者チャールズ・テーラー元大統領、その他数々の「ならず者」政権や麻薬密売人、犯罪組織に武器を提供してきたとされる。まさにジェームズ・ボンドの小説に登場しそうな人物だ。

 ボウトは08年3月、米麻薬取締局(DEA)の巧妙なおとり捜査によってバンコクの高級ホテルで逮捕された。米国務省がテロ組織に指定するコロンビアの反政府左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)に、地対空ミサイル700発、銃数千丁、ミサイル搭載型の戦闘機などを売りつけようとしたのだ。ボウトの逮捕は米政府の大勝利だった。

 バウトはニューヨーク連邦地裁に起訴された(米国法の下では、テロ組織への武器提供はアメリカの法廷で裁かれる)。

タイ裁判所の驚くべき対応

 しかし米司法省と国務省は、「死の商人」と呼ばれるボウトの身柄の引渡しが思うように進まないことに動揺している。

「最悪の悪夢が現実になるかもしれない。世界最悪の武器商人が野放しになる可能性がある」と、ブッシュ前政権で国家安全保障会議のテロ対策チーム責任者を務めたたフアン・ザラテは言う。DEAのおとり捜査を指示したザラテは、以来この事件を注視してきた。

 米政府関係者を唖然とさせたのは、今年8月、タイの裁判所が米政府からの身柄引き渡し請求を却下したことだ。その理由は、米政府から見るとまったくばかげている。FARCは正当な組織であって、テロ組織ではないというのだ。

 口ひげをたくわえた屈強なボウトはこの裁定を法廷で聞くと、立ち上がってVサインをしてみせた。ボウトは無罪を主張しており、彼の支援者が運営するサイトは武器密輸の罪状を「でっち上げ」の「プロパガンダ」だと非難している。

 米政府はタイ検察当局と連携し、すぐに不服を申し立てた。しかし米政府は9月、バンコクのアメリカ大使館からの連絡に再びあ然とさせられた。タイ高等裁判所の判事が9月15日、弁護士や通訳を交えてボウトに秘密裏に面会したというのだ。米大使館やタイの検察当局の関係者は、誰もこの件を知らされていなかった。

オバマ政権の介入は遅過ぎたか

 本誌の取材に対して在米タイ大使館の職員は、「裁判所は政府から独立しており、政府が裁判所の決定に影響を及ぼすような声明を出したり、介入したりすることはできない」と、電子メールで答えた。

 米政府関係者を激怒させているのは、ロシアが全力を挙げてボウトのアメリカへの身柄引渡しを阻止しようとしていることだ(おいしい石油の取引までチラつかせている)。ボウトが長期間アメリカで服役するようなことになれば、ロシア軍や公安当局上層部の武器密輸への関与について口を割るかもしれない、とロシア軍は恐れている。

 ロシア下院は昨年、ボウトの「違法な起訴」を非難する決議を採択。今年2月にタイが初めてロシアから軍用ヘリコプター6機を購入したのも偶然ではないと、米政府関係者は語る。「ロシアがここまでやるとは驚きだ」と、米司法当局者は言う。「ボウトが知っていることは多い。その人脈はロシアの上層部までたどり着く」

 オバマ政権の高官も、最近になってボウトの引渡しに動き出している。ヒラリー・クリントン国務長官とエリック・ホルダー司法長官は、タイ政府にこの問題に関する懸念を示した。デビッド・オグデン司法副長官は今月13日にタイの法相と会談し、ボウトの身柄引き渡しは「アメリカの重要案件」だと伝えた。

 だがアメリカの情報当局や司法当局の関係者は、オバマ政権の関心があまりに低く、遅きに過ぎるのではないかと危惧している。

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