最新記事

ノーベル賞

独占!爆笑ノーベル委員会の舞台裏

何の実績もないオバマを平和賞に選んだノーベル委員会の能なし審議ぶりはこんな風だったはず

2009年10月14日(水)17時14分
ダニエル・ドレスナー(米タフツ大学教授)

やっちゃった! ノルウェー・ノーベル委員会のトルビョルン・ヤーグラン委員長(10月9日、オスロ) Scanpix Norway-Reuters

 バラク・オバマ米大統領のノーベル平和賞受賞について、ブログをアップするのに数時間かかってしまった。なぜか。笑いが止まらなかったからだ。

 まじめな話、私が笑っているのはオバマではない。すでに凋落著しいこの賞を一段とチープにした、ノルウェーのノーベル賞委員会のアホ委員たちだ。この決定が下された審議を想像してみよう。


委員長 おい、みんな! もう午前2時だが今日中に受賞者を決めなくちゃいけない。どうするかね。またジミー・カーター(元米大統領)にやるわけにはいかないし......彼には以前、行き詰まったときに急場しのぎであげてしまったからな。今回しくじったら、グラミー賞より信頼性が落ちてしまうぞ!

A委員 (明らかに酔っ払っている) おう、それなら(アメリカの俳優の)ニール・パトリック・ハリスはどうだい? (司会をそつなくこなした)エミー賞授賞式に......えーと......平和をもたらしたって理由で。

B委員 タイム誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」が「あなた」だった年があるだろう? うちもああいう風にできないかね。ほら、今年の平和賞は平和を愛するすべての人々にって具合にさ。

委員長 バカなこと言うな、駄目に決まってる。(タイム誌の表紙みたいに)報道陣のカメラに鏡を向けて「今年の受賞者はあなたです」って発表しろって言うのかい? そんなことをしたら賞金をくれって頭のイタい連中が山ほど群がってくる。

A委員 ちょっ、マジで、ニール・パトリック・ハリスは最高なんだよ。誰も(インターネットで公開されたハリス主演の短編映画)『ホリブル博士の一緒に歌うブログ』見てないのか?

B委員 そうだ、選挙には勝ったけどムラー(宗教指導者)にポイされたイランのあの男はどうだい。穏やかな感じの男じゃないか。

委員長 悪いが彼も駄目だ。(03年に受賞した人権派弁護士)シリン・エバディで、この10年のイラン枠は使い切ったからな。

B委員 ジンバブエのあの男は?

委員長 名前を思い出せないような人物に、賞はやれんだろう。

C委員 今度のアカデミー賞は最優秀作品賞の候補が10作品になるそうじゃないか。こっちはG20(20カ国・地域)の全部にするっていうのはどうだい?

委員長 G20のメンバーは、本当は20カ国以上なんじゃなかったか? 誰か全部の名前を挙げてくれ。

(沈黙)

A委員 (ハリス主演のコメディー)『ハウ・アイ・メット・ユア・マザー』は、絶対に過小評価されてるって。ハリスはあの番組でズバ抜けてるよ。

C委員 (オーストラリア人俳優の)ヒュー・ジャックマンは去年、米ピープル誌の「最もセクシーな男性」に選ばれた。(ハリスと)ジャックマンの共同受賞でどう? アル・ゴア(元米副大統領)のときみたいに。

A委員 勘弁してくれよ。(ジャックマン主演の映画)『ウルヴァリン』は最悪だった!

B委員 あ、とんでもない案がある......バラク・オバマはどうだ?

(一同爆笑)

委員長 受賞理由をいったい何にすればいいんだ。カーターだって授賞を決めたときには具体的な平和構築の実績があった。「バラク・オバマはジョージ・W・ブッシュ(前米大統領)の一期目のようなマネはしないという素晴らしい実績を挙げました」とでも?

B委員 いいじゃないか。この前わざわざコペンハーゲンまで来てオリンピック招致に失敗したばかりだし。

A委員 それじゃ(米カントリー歌手の)テイラー・スウィフトは? 授賞式にカニエ(・ウェスト)は来ないから(MTVビデオ・ミュージック・アワーズのときみたいにスウィフトの受賞スピーチに乱入してくる心配はない)。

B委員 考えてもみろ。平和賞をあげればオバマにとっては追い風になる。近年のわれわれの見事な受賞者選びのおかげで、アメリカではノーベル平和賞のステータスがものすごく高い。(オバマに平和賞をあげれば)医療保険改革が実現するかもしれないし、保守派は劣勢に立たされる!

(一同うなづく)

A委員 もう、いいさ。ここにいるみんなはニール・パトリック・ハリスが嫌いなんだな。分かったよ。それじゃ(スイスで逮捕された映画監督の)ロマン・ポランスキーは? 話題になるぞ。

委員長 (時計を見て) よし、とにかく締め切り時間はとっくに過ぎてるんだ。(B委員に向かって)授賞理由を書き上げろ。(A委員に向かって)ハリスに連絡して、オバマが受賞スピーチをできない場合に備えてスタンバイさせろ。

B委員 (猛烈に書きなぐりながら) これでどうだ? 「(オバマの登場で)国連をはじめとする国際機関の役割を重視する多国間外交が外交の中心に戻ってきた。解決が極めて困難と思われる国際紛争においても、対話や交渉という手段が好まれている。「核兵器のない世界」というビジョンは、軍縮交渉に大きな弾みをつけている。オバマのイニシアチブのおかげでアメリカは今、気候変動への対応でもこれまで以上に建設的な役割を果たしている。民主主義と人権は強化されるだろう」

委員長 うーん......具体的な実績は「ジョージ・W・ブッシュの一期目と違う」というだけか。だが確かにいい感じだ! よし、では閉会。

C委員 (他の推薦状を見ながら) タフツ大学の例の教授がまた(女優の)サルマ・ハエックを候補者に推薦している。これは、まじめな賞だってことを知らないのかね?


 半分まじめな話、今年はU2のボノが受賞するべきだった。

<追記>
 ノーベル委員会の発表を受けたオバマのスピーチは謙虚で実によかった。何度も言うが、私が笑っている相手は彼ではない。ノーベル委員会の受賞者決定プロセスだ。このご時勢、受賞に値する候補者はほかに大勢いたはずだ。

Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog , 14/10/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中