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ホンジュラス追放大統領セラヤのトンデモ陰謀説
困った男 セラヤの言動にはブラジル当局も困惑(9月23日、在ホンジュラス・ブラジル大使館) Edgard Garrido-Reuters
6月のクーデターで国外追放されたホンジュラスのセラヤ大統領が、9月21日に電撃帰国した。陸路でひそかに首都テグシガルパに戻り、約50人の支持者と共にブラジル大使館に滞在している。
帰国以来、セラヤは「権力の強奪者の退陣」を求め、メディアには自分が謎の攻撃にさらされていると訴えている。毒ガスのせいで喉が痛いとか、「イスラエルの傭兵」が巨大アンテナのような装置で「高周波の放射能」を放ち、自分を攻撃したといったものだ。これにはブラジルのアモリン外相でさえ「セラヤはおかしくなったのだろう」と語り、同国大使館にいる間は言動を控えるようクギを刺した。
現時点では、セラヤが大統領に復帰する見込みは極めて低い。セラヤは米政府からホンジュラスへの援助を打ち切る約束を9月初めに取り付けたが、それでもミチェレッティ率いるホンジュラスの暫定政権は態度を変える気はなさそうだ。
交渉次第では、セラヤは政府高官のポストを獲得できるかもしれない。そうなれば実権は失っても、再び注目を集める存在にはなれる。理想的ではないにせよ、セラヤにとっては最善の選択肢だろう。
だが米シンクタンク「インター・アメリカン・ダイアログ」のマニュエル・オロスコが指摘するように、双方が一歩も譲らず、はったりやスタンドプレーを続ければ危機の長期化を招きかねない。
セラヤはメディアの注目を引き付けるために、今後も強引な陰謀説を持ち出しそうだ。問題なのは、ばかげた疑惑でも憎悪に満ちたチェーンメールなどで簡単に広まり、はるかに深刻な影響をもたらす可能性があることだ。その疑惑がイスラエルとパレスチナの対立を蒸し返すものなら、なおさらだろう。
「イスラエルの傭兵」疑惑については、セラヤの主張が事実に基づいているという「ごくわずかな」可能性を除けば、単なる苦し紛れと言って差し支えないだろう。しかも、許し難いほど危険な苦し紛れだ。
[2009年10月 7日号掲載]