最新記事

ロシア

クソったれ言葉を取り締まれ!

口の悪さで有名なロシアで「浄化作戦」が始まったが、国民のお下劣ぶりは相変わらず

2009年9月25日(金)18時39分
ダリナ・シェフチェンコ(ニューズウィーク・ロシア版記者)

言葉の乱れは… 下品な表現の取り締まりは始まったものの国民の反省の色は薄いようだ Alexander Demianchuk-Reuters

 ロシア人は、自分の言葉遣いが他人よりも悪いことに誇りを感じるような国民だ。しかしだからといって、飛び交う罵声を耳にするのが好きだというわけではない。

 地方政府は最近、汚い言葉遣いの取り締まりに乗り出した。違反者には罰金や講座の受講、人前での説教などの罰則が科せられる。

 取り締まり方法はさまざまだが、多くは丁寧で人付き合いにふさわしい言葉遣いを再教育するから始まっている。例えば東部の都市バルナウルのある冷蔵倉庫では、労働者に下品な語を丁寧な語に言い換える辞書が配布された。社員は「すみませんが、私に迷惑をかけないでください」「お願いですから、邪魔をしないでください」「驚きです」などのフレーズを覚えこまされている。

 ロシア連邦内のアルタイ共和国では、公共の場で汚い言葉を発した人から、警官が1回1000ルーブル(約3000円)の罰金を徴収している。罰金は地方政府の財政にも貢献し、反暴言キャンペーンが始まって5年になるベルゴロド州では、08年の罰金が合計500万ルーブル(約1500万円)に上った。

2歳児が初めて発した言葉は...

「人前で恥をかかせるだけでいい人もいれば、説教が必要な人もいる。罰を課さなければならない人も」と、オムスク州アカイル村のソフィア・アレフィエーヴァ村長は言う。村長が汚い言葉との戦いを始めたのは今年に入ってから。下品な表現を使う村民に嫌気がさしていたときだった。とくに酷かったのは、ある2歳の子供が初めて言葉を発したときのことだ。それは「ママ」でも「パパ」でもなく、ここには書けないようなとんでもない言葉だった。

 この村のある学校では、下品な言葉が使われている本がすべて処分された。セルゲイ・ドブラトフやウラジーミル・ソローキンのような作家にとっては商売上がったりだろう。地元の詩人ライサ・トカチェンコは、こうした行動は過激すぎだと考えるが、取り締まりの本質には賛成だ。「(詩人の)アレクサンドル・プーシキンの悪態は魅力的でスパイスが効いていた。でもここの農家の人たちの悪態は下品なだけ」

 はたして取り締まりの効果は出ているのだろうか。農家のウラジミール・クズネツォフは、最近では下品な言葉を吐く前に、周りに誰か隠れて見ていないか注意するようになった。しかし言葉遣いそのものを改めたわけではない。「罵り言葉はよくない」と、彼は2度繰り返してから少し間を置いて付け加えた。「まあ、そんなのクソッタレだ」

 クズネツォフは別に皮肉を言ったわけではない。汚い言葉遣いは、朝方から酔っ払っているような農場労働者に対するストレス発散の一つなのだと彼は言う。自分のお気に入りのフレーズのいくつかが、公共の場にふさわしくないとは最近まで知らなかったとも言う。彼は村長から子供のように説教されることに我慢がならない。「俺の答えは、罵られて死んだ奴なんていないってことだ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米政権、FEMA廃止案を撤回 州主導の災害対応継続

ワールド

クルド人組織PKKが武装解除、トルコとの対立終結へ

ワールド

ウクライナ、ロシア西部にドローン攻撃 戦闘機・ミサ

ワールド

米、ウクライナ軍事支援再開 ゼレンスキー氏が表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パトリオット供与継続の深層
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 6
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 7
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    英郵便局、富士通「ホライズン」欠陥で起きた大量冤…
  • 10
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中