最新記事

アフリカ

コンゴという幻想国家と縁を切れ

2009年8月20日(木)18時17分
ジェフリー・ハーブスト(国際政治学者)、グレゴリー・ミルズ(アフリカ政治学者)

クリントン訪問の意義と限界

 外国人責任論のほかに、もう一つ典型的な反論がある。ジャーナリストのデルフィン・シュランクがフォーリン・ポリシー誌のサイトで論じたように、どんな状況に置かれても、コンゴ人の心の中にはコンゴという国が存在するという主張だ。

「政府にはびこる暴力行為のせいで国家は存在しないが、『コンゴ人の国』は観念的に存在する。人類学者のベネディクト・アンダーセンの言葉を借りれば『想像上の政治コミュニティー』だ。6800万人の人々がそこに属していると信じている以上、コンゴは存在する」

 彼らのアイデンティティの絆として、音楽が例に挙げられることも多い。しかし、何百万人もの国民が命を落とした今、コンゴ人には「想像」ではない本物の国家をもつ権利があるはずだ。

 クリントン国務長官の短いコンゴ訪問は、そうした問題すべてに光を当てるものだった。東部の町を訪問したのは極めて正しい判断だ。おかげで集団レイプなどの人権侵害や民間人への報復行為、悲惨な生活環境に、世界中が怒りを覚えた。

 対策の強化を求めて圧力をかけた点も正しかった。だが、それこそが問題の元凶でもある。クリントンが問題解決を要請した相手、つまりコンゴ政府こそ、問題の核心なのだから。

 コンゴ政府が主権を行使できる状態にあるのなら、今ごろは鉱物資源の不法取引の取り締りがもっと進んでいるはずだ。実際には、あまりにも多くの勢力(政府とつながった勢力もある)が、不正な取引の恩恵に与っている。

 コンゴ東部ではカビラ政権の統治はまったく機能しておらず、次の政権が誕生してもそれは変わらないだろう。さらに困ったことに、国家権力であるはずの政府軍が、東部の民兵組織と同じくらい民間人の脅威になっているケースも多い。

 クリントンの訪問などを経て、国際社会はコンゴ東部の悲劇の大きさを認識しつつある。だが同時に、中央政府が問題を解決できると信じることで、危機解決の足を引っ張ってもいる。

 コンゴの問題に本当に切り込むには、国際社会はコンゴという国家の本質と失敗に真正面から向き合う必要がある。「チェンジ」を掲げたオバマ政権は、確固たる信念をもって40年に及ぶ茶番劇に終止符を打つべきだ。

(ハーブストはオハイオ州のマイアミ大学総長、ミルズはヨハネスブルグに本部を置くブレンサースト基金の責任者)


Reprinted with permission from www.ForeignPolicy.com, 8/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国首相に対する弾劾訴追案、最大野党が週内に方針決

ワールド

欧州にフーシ派のテロ組織指定働きかけ、イスラエルが

ワールド

石破首相、トランプ氏との会談「早期に」 適当な時期

ビジネス

中国、来年の特別債発行過去最大の3兆元 消費や企業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山谷の「現在を切り取る」意味
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 5
    日本製鉄、USスチール買収案でバイデン大統領が「不…
  • 6
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 7
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 8
    【クイズ】「ATM」は何の略?
  • 9
    「自由に生きたかった」アルミ缶を売り、生計を立て…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 6
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 7
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 10
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中