最新記事

安全保障

ビルマの核兵器開発を阻止する方法

北朝鮮がビルマに核技術を流している疑惑が浮上。核拡散を防ぐには今から「非常ベル」を鳴らし続けるしかない

2009年8月6日(木)15時00分
キャサリン・コリンズ(ジャーナリスト)

核クラブをめざす ビルマの軍事政権は北朝鮮の支援を受けて核開発の野望をふくらませている Sukree Sukplang-Reuters

 7月末、米中戦略・経済対話のために、多数の中国高官がワシントン入りした。彼らを待ち受けていたのは、アメリカが懸念を募らせる新たな重要課題──北朝鮮からビルマ(ミャンマー)への核技術移転疑惑だった。

 ヒラリー・クリントン国務長官は、7月23日からタイで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラムでビルマの核開発疑惑に触れ、アメリカはこの脅威を「非常に深刻に」とらえていると語った。

 米国務省と議会の関係者は、クリントンが中国の戴秉国(タイ・ビンクオ)国務委員との会談の席でもこの話題を取り上げると予想していた。会談の準備に関わった関係者は私に語った。「ビルマは極めて重要な課題だ」

 疑惑を裏づける証拠は、今のところわずかしかない。ビルマに向かっていた北朝鮮の貨物船が米軍艦に追跡されて引き返した一件、ビルマの新首都ネピドーの近郊に掘られた巨大な地下トンネルの写真、何件かの不審な輸出品──。

 だが、動機は十分あると、ビルマを監視する米政府関係者は語った。「ビルマの指導者層は被害妄想にとらわれており、安全保障を核兵器に頼っても不思議ではない」と、この関係者は言う。

ビルマの軽水炉建設をロシアが支援

 こうした秘密裏の核開発計画を止めさせる方策はあるのか。私たちが核拡散の歴史から学ぶものがあるとすれば、それは初期の段階から頻繁に「非常ベル」を鳴らすことこそ最善の方法だということだ。

 実際、ビルマの動向は過去に見た光景に不気味なほど似ている。1950年代後半、イスラエルの砂漠で不審な工事現場が見つかったが、イスラエルは曖昧な説明でごまかしていた。核開発に取り組んでいるとの情報は無視され、イスラエルはやがて核兵器開発に成功した。

 インドとパキスタンでも、同じことが繰り返された。怪しい物資の流れに国際社会が反応していれば、両国が核を手にすることはなかったかもしれない。
 
 さらに、注目すべきなのはイランの存在だ。70年代半ばから核兵器開発に情熱を燃やしてきたイランを止めるのは、もはや手遅れかもしれない。イランが闇市場で核技術を入手している兆候は80年代からあったが、アメリカの情報機関はイランには核兵器を開発する能力などないと考えて無視してきた。

 ビルマはすでに、核開発の基本要素の一部を手に入れている。数年にわたる議論を経てロシアは07年、ビルマに対して軽水炉や核廃棄物の再処理・廃棄施設の建設計画を支援することに合意した。軽水炉は核兵器開発には適さないものの、この合意はビルマが「核兵器クラブ」のドアに近づく一歩となる。
 
 もっとも、アメリカの気分を害している最大の要因は、北朝鮮との関係だ。北朝鮮は昔から大砲などの通常兵器をビルマに輸出してきた。ビルマ側の支払いは大抵、北朝鮮が切望する米だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅反落、1000円超安で今年最大の下げ

ワールド

中国、ロシアに軍民両用製品供給の兆候=欧州委高官

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明、無所属候

ワールド

IAEA、イラン核施設に被害ないと確認 引き続き状
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中