最新記事

スポーツ

「9秒4は可能だと思う」

陸上の英雄ウサイン・ボルトが語るレースの秘訣と祖国ジャマイカへの思い

2009年8月20日(木)15時05分

私には神がついている 陸上世界選手権で100メートルを9秒58で走り抜けたボルト(8月16日) Phil Noble-Reuters

 08年の北京五輪でウサイン・ボルトは陸上男子100メートルと200メートルを共に世界新で制し、大きなストライドの走りと、ジャマイカ人らしい陽気な勝利のダンスが世界的な人気を博した。IOC(国際オリンピック委員会)のジャック・ロゲ会長はボルトのダンスを金メダリストにふさわしくないと非難したが、ボルトのエージェントは彼を、タイガー・ウッズ並みに年1000万ドル以上稼ぐ初の短距離選手にしようとしている。

 世界のスポーツ界で活躍した選手をたたえるローレウス世界スポーツ賞を受賞し、表彰式のためにカナダのトロントを訪れたボルトに本誌トニー・エマソンが聞いた。
       
――あなたは100メートルを9秒69で走った。人間の限界はどこにあると思う?

 9秒4はいけると思う。

――あなたが?

 かもね(笑)。

――ほかの選手にけしかけられたことはあるか。

 ある選手から(北京五輪の予選直後に)「決勝はジョギングってわけにはいかない」と言われた。それまでだって別にジョギングしていたわけじゃない。賢くエネルギーを節約していただけだ。そのときも笑い返しただけ。私をけしかけたって無駄だよ。

――10回に1回しか本気で走らないそうだが。

 レースを見れば分かると思うけれど、80メートルほど走って勝てると確信したら、後は流す。態度が悪いという人もいるが、そういうふうに教わった。

――あなたが英雄である理由の1つは、薬物に縁がないことだ。だが筋肉を増強したライバルに負けたらどうする?

 私に薬物は必要ない。すごい記録を出してきたけれど、どこかで負ける可能性があることも分かっている。でもトップを維持するために何が必要かは知っている。もっと練習し、集中することだ。私には神様がついている。だから余計な心配はしない。

――ある選手のコーチはあなたを陸上界のアインシュタインやニュートンに例えた。つまり天才ということだ。自分が世界からどう見られているか、自覚している?

 他人の期待に合わせて変わろうとは思ってない。そんなことをしたら、引退したとき自分が誰だか分からなくなってしまう。こういう姿勢も、一部の人には嫌われるのだろうけれど。

――あなたの父親は食料雑貨店を経営しているそうだが、ジャマイカでは中産階級になるのか。

 うちは金持ちじゃない。それは確かだ。私を学校に行かせるために父は一生懸命働いた。でも欲しいものは何でも与えてくれた。今でも父は働き者だ。もう働かなくていいと言っても、やめたがらない。父は誇り高い男だ。

――ジャマイカでは誰でも体罰を受けると語っていたが、父親のしつけはどうだった?

 人を尊敬することと規律を守ることに関しては、父はとても厳しかった。祖父がそうだったからだ。どんなに変な人も、どんなに貧しい人も尊敬するようにと教えられた。父にはいつも感謝している。誰にも愛されるような人間になれたのは父のおかげだから。

――ジャマイカのスポーツ選手の成功は、祖先が奴隷だったことと関係があると語っている。

 ジャマイカのスポーツ選手の大半は、アフリカから連れて来られた奴隷が住んでいたコックピットカントリーと呼ばれる地域の出身だ。足の速い人はたいていその一帯で生まれている。だから関係があると思う。

――年収1000万ドルの目標はどうなっているか。

 ああ、それはこの人に聞いてくれ(エージェントを見る)。

――あなたがそう言ったことになっているが、本当はエージェントの言葉なのか。

 そうだ。彼の発言だし、彼がその目標に取り組んでいる。

――カネのことは考えない?

 もちろん考える。一生走り続けられるわけじゃないからね。 

[2009年7月29日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、来週訪米 トランプ氏とガザ・イラン

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ビジネス

関税とユーロ高、「10%」が輸出への影響の目安=ラ

ビジネス

アングル:アフリカに賭ける中国自動車メーカー、欧米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 6
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中