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イランで本誌記者が拘束された瞬間

日曜の朝7時、テヘランの自宅で寝ていたマジアル・バハリが母親の前で連行され、彼のパソコンが押収された

2009年6月22日(月)17時54分

有名人 ドキュメンタリー映画の制作でも知られるバハリ

 6月20日夜から21日朝にかけ、イランの首都テヘランで数十人が拘束された。その1人が、ニューズウィーク記者として10年以上イランを取材してきたマジアル・バハリ(41)だ。

 21日午前7時、テヘランにある彼のマンションに数人の治安当局者がやって来たとき、彼は就寝中だった。母親によると、当局者らは身分を明かさず、バハリのノートパソコンと数本のビデオテープを押収。敬意を持って彼を処遇すると母親に伝え、連れ去ったという。それ以来、バハリから連絡はない。

 ニューズウィークは声明を発表し、バハリの拘束を強く非難して即時解放を訴えた。彼はカナダとイランの国籍を持っている。

 声明は次のように述べている。「ニューズウィークや他のメディアを通じた彼のイラン報道は、常に公平で慎重であり、どんな問題でもあらゆる側面をしっかり取り上げている。彼は現政権を含めたイランの歴代政権と常に良好な協力関係にあった」

 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」によると、6月12日の大統領選挙以降、20人以上のイラン人ジャーナリストやブロガーが拘束されている

 20日には、市内各地で散発していた抗議デモが暴力的になったため、治安当局が鎮圧に乗り出した。マフムード・アハマディネジャド大統領が圧勝した選挙の正当性をめぐり、対抗候補ミルホセイン・ムサビ元首相の支持者らが抗議行動に繰り出していた。イラン国営テレビによると、少なくとも10人が死亡、100人以上が負傷した(死者は19人に達したとの情報もある)。

「私の息子を返してほしい」

 バハリはイランでは有名人だ。ニューズウィークに記事を書くほか、ドキュメンタリー映画の制作者や劇作家としても知られている。手掛けた映画は10本以上。聖なる都市で売春婦を狙う連続殺人犯を描いた『クモ殺人』(Along Came a Spider)は、米ケーブルテレビHBOで放映された初めてのイラン製ドキュメンタリーだ。

 バハリは1988年、映画と政治学を学ぶためにカナダに渡り、コンコーディア大学(モントリオール)でコミュニケーションの学位を取得。その後イランに帰国してジャーナリスト活動を始めた。初期の映画作品はカナダで制作した。トロントに自宅がある。

 バハリの母親は21日夜、イラン当局へのささやかな願いを語った。「マジアルが帰って来ればそれでいい。私の息子を返してほしいだけだ」

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