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ロシアロシアは経済危機で蘇る
旧ソ連圏の周辺国を経済支援して覇権復活をねらうロシア。EUも反撃に出て、東欧は陣取り合戦の様相を呈し始めた
経済危機にあえぐロシアだが、地政学的にはそれが恩恵をもたらしている。ロシアの指導者は長年、旧ソ連圏の近隣諸国に対し覇権的な力を維持する「新しい機構」の創設を語ってきた。今、ロシアはその夢を実現するチャンスをつかみつつある。
東欧の多くの国々に比べればロシア経済はまだましだ。今年の経済成長予測はマイナス2%だが、マイナス10%のウクライナを筆頭に旧ソ連の国はどこも大打撃を受けている。ロシアはこの好機を逃すまいと、融資をしたり金融支援を申し出たりしている。
開発銀行の設立を餌に
その政策は実を結びはじめ、十数年ぶりにロシアはこの地域での影響力を取り戻しつつある。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は2月、ロシアから20億ドルの融資を受け入れた後、ロシア主導の対空防衛システムを国内に構築することに合意した。
ロシアから20億ドルの融資の申し入れを受けたキルギスも2月、NATO(北大西洋条約機構)軍のアフガニスタン派兵の物資供給拠点となっているマナス空港の米空軍基地を閉鎖すると発表。ロシアはさらに、旧ソ連諸国のための開発銀行をロシア主体で設立する計画をちらつかせている。
EU(欧州連合)も反撃に出ている。昨年8月にロシアがグルジアに侵攻したのを受け、ロシアの勢力拡大に対抗する外交政策「東方パートナーシップ」を構築した。旅行や貿易上の制限を緩和することでアルメニア、アゼルバイジャン、グルジア、モルドバ、ウクライナといった旧ソ連諸国との関係を強化するのが目的だ。
EUは2月に、ベラルーシもこれに加わると発表。ハビエル・ソラナ共通外交・安全保障上級代表が首都ミンスクを訪問し、ビザ(査証)の規制緩和と3億5000万ユーロの金融支援を申し出た。
融資と戦車で外交に勝つ
EUかロシアのどちらか一方との関係を断つ余裕のある国などない。だが、いくつかの国はロシアに傾いている。モルドバのウラジーミル・ウォロニン大統領は2月末、EUの東方パートナーシップは「対ロシア包囲戦略」だと批判し、参加を拒否した。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は日和見の姿勢だ。ロシアから融資を受ける一方、グルジアの南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を認めるよう迫るロシアの要求には抵抗。EUの要請に応じて野党勢力と面会し、主要グループ「フォー・フリーダム」の活動を認可した。「(EU代表の)ソラナが希望をもたらした」とグループ代表のアレクサンドル・ミリンケビッチは言う。
しかしロシアの資金力と軍事的脅威が、EUの外交力に勝るかもしれない。ベラルーシ経済はロシアが供給する安価な天然ガスに依存し、対ロシア債務は150億ドル以上。何よりロシアのグルジア侵攻以降、「ある日ミンクスにロシア軍の戦車がやって来るかもしれないと誰もが感じている」と、ベラルーシの人権団体「憲章97」のアンドレイ・サニコフは言う。
とりわけ苦境に立たされているのがウクライナだ。経済は破綻に瀕し、ロシアの国営天然ガス独占企業ガスプロムに対する多額の債務をかかえ、少なくともあと50億ドルの金融支援が必要だ。ロシアが2月に金融支援を申し出たが、EU加盟を望む国民の多くはロシアの干渉に警戒感を示した。政府は今のところこの申し出を拒否しているが、EUからの支援の見通しが立たなければ誘惑にあらがえなくなるかもしれない。
ロシアの野望は財源次第だ。今年度の財政赤字は、石油による余剰収入を積み立てた1500億ドルの安定化基金で穴埋めしている。しかし財源が尽きたらどうなるか。近隣国との関係を築くために費やした時間と労力を考えれば、その野望を捨てることはないだろう。 恐ろしいのは、ロシアが影響力を失ったとき、武力に頼るかもしれないということだ。
[2009年3月18日号掲載]