最新記事

朝鮮半島

北朝鮮の挑発にじたばたするな

アメリカに良い選択肢がない以上、北朝鮮の核保有能力を容認し続けるしかない。最善の対応は冷静にしていることだ

2009年5月27日(水)05時23分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授、国際関係論)

国威発揚 平壌市内の軍事パレードで公開されたミサイルの映像(07年4月25日) Reuters

 5月25日~26日にかけて、北朝鮮は2度目の核実験を行い、短距離ミサイルを数回発射した。確かに良いニュースではないが、パニックに陥る必要はない。北朝鮮が核兵器能力を保持していることは既に分かっていた。今回の核実験は前回よりも少しばかり強力だったようだが、戦略環境が実質的に変化したわけではない。

 北朝鮮の挑発的な態度は不快かもしれないが、核実験をしたからといって金正日(キム・ジョンイル)政権について何か新しいことが分かるわけではない。アメリカは核実験を1030回(イギリスとの共同実験はさらに24回)行ってきた。北朝鮮はちょうど2回しか核実験を行っていない。

 大げさに騒ぐ必要がないもうひとつの理由は、北朝鮮の核問題についてほとんど何もできないということだ。われわれはこの問題に十数年の間悩まされてきた。クリントン政権は93年~94年にかけて、北朝鮮の核施設に対する予防的な攻撃を真剣に検討していた。だが結局、自制した。攻撃によるリスクは計り知れないと、北朝鮮周辺の同盟国が反対したからだ。

 続くブッシュ政権は、クリントン政権で重視された外交路線に反対し、当初はより強気の態度で臨んだ。それでも06年の1回目の核実験を止めることができなかった(むしろ核実験を促したかもしれない)。ブッシュ政権は結局、威圧的な政策に効果はないと気付き、外交路線に転換した。

 われわれにとって打つ手が乏しい理由は2つある。まず、北朝鮮と経済的に深く結び付いていない。だから援助や貿易、もしくは投資を断ち切るぞと圧力をかけることができない。

 次に、金正日政権を武装解除あるいは転覆させるために武力を行使したり経済封鎖をすることは、朝鮮半島で全面戦争を引き起こす恐れがある。そうなれば北朝鮮との国境から砲撃範囲内にあるソウルに甚大な被害をもたらしかねない。さらに北朝鮮が突如崩壊すれば、大規模な人道的問題が発生しかねないうえ、核物質が国外に流出しやすくなる。

 こうした懸念から中国や韓国は、北朝鮮の行動に憤慨しているにもかかわらず制裁強化には概ね反対している。

 最善の対応は冷静にしていることだ。この核実験がオバマ大統領の決意を試しているとか、アメリカの外交政策に対する根本的な挑戦だといった議論はやめたほうがいい。実際のところ、核実験は北朝鮮にとっては「いつものこと」にすぎない。アメリカは過剰に反応するより「控えめな反応」をした方がいい。

 注目されたがっている北朝鮮に注目するよりも、アメリカはこの核実験を主要関係国(中国、ロシア、韓国、日本)の間での合意作りに生かし、中国にその主導権を握らせるべきだ。

 オバマ政権がとりわけ避けるべきなのは、アメリカが北朝鮮の核保有を「容認しない」ことに関して大胆な発言をすることだ。実際のところ、われわれは北朝鮮による核保有を容認してきた。良い対応策がない以上、今後も容認し続けることになる。

Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog, 26/5/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米上院議員、ウクライナ支持決議案提出 トランプ氏一

ビジネス

アップル、「Mac Mini」生産の一部をアジアか

ワールド

英警察、アンドルー元王子旧宅の捜索終了 米富豪への

ビジネス

日鉄CB6000億円、好需要で増額も発行条件据え置
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 5
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 8
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 9
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 10
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中