最新記事

教育

多言語を話す子供は2倍速く学習することが判明! 「成長を遅延させる説」は覆る

2018年6月19日(火)16時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

多言語教育における調査はまだ黎明期ではあるものの見通しは明るい SerrNovik-iStock

<脳科学の研究においても、複数言語を操る人は習得のアドバンテージを身につけ学力向上に役立てていることが分かっている。多言語を話す子どもは勉強で成果を出しにくいという考えは誤解>

複数の言語を話す中学生は成績が伸び、テストの得点も改善されていることが新しい研究で判明した。ニューヨーク大学のマイケル・キーファー准教授とオレゴン州立大学のカレン・トムソン准教授が発表した研究によると、英語のみを話す生徒に比べ、多言語を話す生徒の方が読書や数学の分野で2~3倍の速さで学力向上の成果を出していることが分かった。

アメリカの学校は言語教育において、ここしばらく他国に遅れをとっている状況で、これまでも多言語習得の有効性を示す研究は多数発表されているものの、多言語を話す子どもは勉強で成果を出しにくい、という誤った考え方も根強い。しかし今回の研究で、その通説は覆されることになった。

不十分な教育環境でもマルチリンガルの学力は伸びる

現在アメリカには約500万人のELL(English Language Learner::英語を勉強中の人)の生徒がいる。これは全国の公立校に通う生徒の約10%に当たり、今後更に増える見通しだ。その一方で、自身をバイリンガルだと認識しているアメリカ人は約15~20%にとどまる。これは英語以外の言語で授業ができる教員の不足、そして複数言語で授業ができる教員の数はさらに少ないことを意味するという。

ところがこういった不利な学習環境にも関わらず、アメリカの生徒、特にマルチリンガルの生徒たちは2003~2015年まで、学習能力を伸ばし続けていた。2008年の金融危機により教育機関への助成が削減され、多くの教員が困窮状態を目前にしていたにも関わらず、である。

特筆すべきはマルチリンガルの生徒の成長率。小学4年生は、英語のみを話すモノリンガルの生徒と比べ読書の点数を25ポイント、算数においては27ポイント上回った。中学3年生の結果はより顕著で、それぞれ37ポイントと39ポイントの差をつけた。

この結果についてトムソンは、「(マルチリンガルの生徒の)情報に注目する、または遮断する、ある兆候の任意性を理解する能力は、読書をする際に有利になる」との見方を示す

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中