アメリカなき世界に迫る混沌の時代【後編】
「世界の警察官」が不在になればアジアや中東各地で覇権争いが激化し国際社会は大混乱に陥りかねない
孤立主義 イラクやアフガニスタンでの戦いに疲れたアメリカは内向きに Andrew Burton-Reuters
(4月22日掲載の「アメリカなき世界に迫る混沌の時代【前編】」から続く)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領に、ロシア陣営にとどまるよう激しい圧力をかけている。そのためヤヌコビッチは、EU(欧州連合)との連携を強める「連合協定」の調印を見送った。しかし国民の多くは協定を支持。04年のオレンジ革命を思わせる大規模な抗議行動を起こした。
アメリカなき世界で最も危険な事態に陥るのはアジアだろう。中国、日本、韓国、台湾が数十年にわたり競い合う地域で、くすぶる領有権問題が戦火を起こしかねない。火種の1つは南シナ海における中国の好戦的な姿勢。もっと深刻なのは、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を主張する中国と日本の対立だ。13年11月、中国が東シナ海上空に日本のものと重なる防空識別圏(ADIZ)を新たに設定し、紛争の不安が高まった。
アメリカの安全保障の傘のおかげで何十年もの間、アジア主要国間の不和は休眠状態にあった。アメリカがいなければ、アジアはとうの昔に破滅的な軍拡競争に突入していただろう。実際、今回の中国の挑発行為には国内問題で手いっぱいのアメリカを試す意図がありそうだ。
オバマのうたうアジア重視戦略は今のところ中途半端な状況にある。しかし領有権をめぐる緊張を背景に、2014年にはその立て直しを図るだろう。14年4月にオバマがアジアを歴訪する際は、同盟国である日本と韓国の懸案事項を優先議題にすることが期待される。
冷戦時代は単純だった
アジア以外でも14年は騒然とした年になりそうだ。各地で選挙が行われ、世界人口の約40%が投票をする。ブラジルやチリ、ギリシャ、マレーシア、タイ、トルコを揺るがしたような中間層による抗議デモが世界各地で起き、政府を試練にさらすだろう。北アフリカと中東の広い範囲ではアラブの春の余震が続く。エジプトやリビア、チュニジアの暫定政府は権力の確立に苦労し、シリアの恐ろしい人道危機は収まりそうもない。