最新記事

アメリカ社会

CNN公認ヘイトスピーチの狂気

ヘイトグループの指導者を重用するCNNの視聴率偏重主義に異議あり

2013年12月18日(水)18時08分
マーク・ジョセフ・スターン

テレビ芸人? 過激なゲイ差別で人気のトニー・パーキンズ Sean Gardner-Reuters

 16日にCNNキャスターのジェイク・タッパーはユタ州で一夫多妻を合法としたユタ連邦裁判所の最近の判決について7分にわたって嘆かわしい議論を披露した。ゲストとして、一夫多妻のカルトから逃げた反一夫多妻活動家ローリー・アレンを招いたのは申し分ない。ただもう1人のゲストは「家族研究協会」会長トニー・パーキンズだった。

 もしその名前にピンと来なければ、運がいい。パーキンズはありきたりの反ゲイ扇動家ではない。狂信者が支配する反同性愛の世界でも極めつきの人物だ。「婚姻制度を守る」という見え透いた振りをして同性愛嫌悪をごまかす団体「全米結婚のための組織」とは異なり、パーキンズは同性愛者は男児を性的に暴行したり虐待して同性愛者に仕立てようとする小児性愛者だと確信している。

 彼は同性愛の擁護者をテロリストに例えて、同性愛者の死刑を支持し、米軍内での同性愛を禁じた「ドント・アスク、ドント・テル(聞かない、言わない)」を廃止したことが基地内での銃乱射の原因と決め付けた。彼の「家族研究協会」が「ヘイトグループ(差別主義団体)」というレッテルを貼られたのも当然だ。トニー・パーキンズは単に同性愛者を嫌悪しているのではなく、異常なほど恨み深く異常なのだ。

 その狂気は16日に白日のもとにさらされた。パーキンズは、一夫多妻は同姓婚合法化の当然の産物だといういつもの(間違った)議論に話を向けた。「もし裁判官が男女で行うという結婚の定義を恣意的に変えれば、結婚の数も簡単に変わってしまう。連邦最高裁判決『ローレンス等対テキサス州(同性愛者同士の性行為を禁じたテキサス州法を違憲とする決定)』を手始めに、次は一夫多妻を認めることになるだろう」

 先週の一夫多妻制判決への常識的な批判もありえたが、パーキンズは何も挙げなかった。代わりに、彼は反同性愛扇動家にふさわしい論法を持ち出したのだ。

 なぜCNNは彼を招いて生放送でこんな口から出まかせをしゃべらせ続けるのか。あくどい日和見主義だ。パーキンズのように不快なキャラでも、あのような有名人が視聴者を引き寄せることを理解している。おかしな人を呼んできわどい話題をさせることは、もちろんケーブルテレビの古くからの戦略だ。しかしパーキンズをしばしば招くことで、CNNは危ない橋を渡っており、彼の過激な見解をCNNブランドの下で放送することでそれが正常であるかのように思わせている。

 パーキンズの姿勢をよく知っていれば彼の間抜けな詭弁を嘲笑できる。しかし同性愛者の権利について未だどっちつかずなら、「同性愛者の男性は破廉恥な小児性愛者」と言うテレビの身なりの良い男の言い分には一理あると、視聴者は思い始めるかもしれない。パーキンズは近年で極めて卑劣な有名人で、CNNが彼に不誠実で有毒で邪悪な意見を開陳する機会を与えているのはまさに恥ずべきことだ。

© 2013, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2月小売業販売額は前年比+1.4%=経産省(ロイタ

ビジネス

相互関税、全ての国が対象に=トランプ米大統領

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 2期目初の

ワールド

イスタンブールで野党主催の数十万人デモ、市長逮捕に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中