ネット監視、本当の悪夢
米政府の通信情報収集問題で怖いのは、データがハッキングされて悪用される可能性だ
どこへ? モスクワ近郊の空港で旅行者にスノーデンの写真を見せて話を聞く記者も(6月23日) Sergei Karpukhin-Reuters
アメリカ政府によるネット監視を暴露した元CIA職員のエドワード・スノーデンは、今どこにいるのか。彼は、米国家安全保障局(NSA)のコンピューターからダウンロードしたデータを誰に渡したのか。そのデータを受け取った勢力は、それをどうするつもりなのか。
これらの問いの答えは、現時点で分かっていないし、結局は分からずじまいかもしれない。しかしそれ以外の点について、これまでに明らかになってきた情報は極めて不吉なものだ。
スノーデンは5月に米政府による通信情報収集を暴露した後、香港を経てモスクワ入りするまでに、ダウンロードしたデータを大量に複製し、多くの人たちに配布したことが分かっている。英ガーディアン紙のグレン・グリーンワルド記者によれば、そのデータは暗号化されているが、スノーデンは「自分にもしものことがあった場合」その人たちが全データを閲覧できるように手を打っているという。
この事件は、NSAの秘密監視プログラムに重大な不安を投げ掛けるものと言わざるを得ない。次第に分かってきた情報によれば、スノーデンは単なる暴走した若者というわけではなさそうだ。長期間かけてきめ細かい準備を行い、入念な計画を立てていた形跡がある。
モスクワからキューバのハバナに向かおうとしていると世界中を欺いたことなど、スノーデンの取ってきた行動はことごとく、狡猾な工作員の振る舞いのように見える。不満分子のIT技術者のやることとは思えない。
この点は極めて憂慮すべき材料だ。明らかになっている情報から判断する限り、NSAは今回のような計画的な侵入を阻止できるだけの充実した体制を備えていない。スタッフによるデータの不正入手を防ぐためにセキュリティー対策を強化することは可能だろうが、組織的な犯行を完全にはねのけることは難しいだろう。
せめてもの救いは、スノーデンが高潔な目的の下で一連の行動を取ったと主張していることだ。米政府が世界規模で徹底した監視体制を築いていることを暴露し、民主主義の在り方に関する議論のきっかけをつくりたかったと、本人は述べている。
穴だらけのセキュリティー
この主張を疑う理由はない。膨大なオンライン投稿などを読む限り、スノーデンは本気で正義のために行動したようだ。
スノーデンは、「ホワイトハット」──つまり正義のハッカーだったのだろう。しかし、もし彼が悪意を持った「ブラックハット」だったとしたら? NSAのデータが盗み出されて、政治家などの要人が弱みを握られて脅されたり、アメリカの機密が外国政府やテロ勢力に漏洩されたりしても不思議でない。
スノーデンは比較的簡単に、NSAの機密情報を扱う現場に入り込むことができたようだ。CIAの末端職員となったのを皮切りに、NSAやその契約企業へと移籍するたびに着実に地位が高くなり、扱うことを許される情報の機密性も高まっていった。
スノーデンはやすやすと米情報機関の内側に入っていく間、自分の思想信条を隠すこともしなかった。監視国家への嫌悪など、自分の主義主張をオンライン上で公然と訴えていた。
スノーデンのやったことは、強い意志と忍耐さえあれば、どのような外国勢力でも実行できることだ。イランや中国、国際テロ組織アルカイダなどの勢力がスノーデンのような人物の糸を引く可能性もある。というより、既にそのようなことが行われていないとも限らない。