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アメリカ最高裁の同性婚判決がもたらす現実
「21世紀の公民権運動」にとって大きな前進だが、全米で同性婚が認められる道のりは遠い
大きな前進 最高裁の合憲判決を喜ぶ同性愛カップル(サンフランシスコ) Noah Berger-Reuters
6月26日、アメリカの歴史に新たな1ページが刻まれた。連邦最高裁が同性婚者にも異性婚者と平等の権利を保障するという判決を下したのだ。
最高裁で争われていたのは、「結婚は男女間に限る」と定義した連邦法「結婚防衛法」と、カリフォルニア州の州憲法同性婚禁止条項の合憲性。結婚防衛法はこれまで、同性婚が認められている首都ワシントンと12州で合法的に結婚した同性婚者にも、配偶者税控除や社会保障などについて異性婚者と同じ権利を認めてこなかった。
しかし最高裁は、同性婚を異性婚と差別し同様の利益享受を認めていない同法は、自由や財産権を保障する合衆国憲法修正第5条に照らして「違憲」と判断。その結果、異性婚者だけに認められていた所得税や相続税など1000項目以上もの優遇措置が同性婚者にも拡大される見通しになった。アメリカ人と同性婚した外国人にも平等に移民法が適用され、永住権やビザを申請できるようになる。
「同性婚者も異性婚者と同じ」と認めた判決に、全米が沸いた。同性婚を支持する人にとって今回の最高裁審議は生活面での便宜を求める訴えにとどまらず、異性婚者との差別を撤廃して彼らと同等の地位と権利を獲得する「21世紀の公民権運動」にほかならなかったからだ。
国勢調査局によれば、10年の時点で同性婚の家庭は全米で約60万世帯。そのうち子供がいる家庭は約12万世帯に上っている。「うちはママがいなくてパパが2人」という子供はもはやテレビドラマに限った話ではなく、こうした子供の親にとっては子供の権利保障を求める戦いでもあった。
「南部ではあと10年は現状維持」
とはいえ最高裁は、全米で同性婚を解禁する判断を下したわけではない。同時に争われていたカリフォルニアでの同性婚禁止を求めた裁判では、最高裁が原告の訴えを棄却したため、同州では同性婚が認められることになったものの、同性婚者の権利については、州レベルで合法的に結婚した場合にのみ保障したにすぎない。
同性婚を禁じている36州については、州レベルで法改正するか、誰かが最高裁判決を盾に違憲訴訟を起こさない限りは禁止されたままだ。同性愛者同士が合法の州で結婚し、その後に禁止された州に引っ越した場合や、禁止された州に引っ越した後で離婚したいケースにどう対応するか、という問題もある。
同性婚支持団体は5年以内に全米50州で合法化を目指すというが、それほど急速な変化は期待できない。カリフォルニア大学デービス校のビクラム・アマル教授(法学)は、約25州は比較的早く合法化に向かうだろうが、保守色の強い南部州では少なくともあと10年は現状維持だろうとみる。
同性婚問題に詳しいハーバード大学のマイケル・ブロンスキー教授も「法を変えるのは簡単だが、伝統的な社会環境や人々の心や考え方を変えることは容易ではない」と言う。
法が認めたからといって、すべての人が自由に同性婚に踏み切れるかはまた別問題だ。公民権運動の最中だった65年に黒人の選挙権を保障する投票権法が制定されたにもかかわらず、今も一部の南部州で差別的な措置は残る。同性婚も同様だろう。
それでも今回の判決が、「21世紀の公民権運動」にとって大きな前進であることは間違いない。03年に最高裁が南部テキサス州に唯一残っていた同性間の性行為を犯罪と見なす「ソドミー法」に違憲判決を下し、全米でこの法律が無効になってから今年でちょうど10年だ。
[2013年7月 9日号掲載]