帰還後に自殺する若き米兵の叫び
なぜ若い元兵士の自殺がこんなに多いのか。
92年、私は「彼ら」の1人になりかけた。海兵隊に4年いて、湾岸戦争のときはクウェートで戦闘に参加した。除隊して戦場での高揚感や強い連帯感が過去のものとなり、孤立感や孤独感にさいなまれて死にたくなる気持ちが、私には分かる。
私は大学に入ったものの、いつも周囲に警戒の目を光らせていた。仕事は人と接する必要がほとんどない倉庫で、夕方からの勤務を選んだ。やがて作家になったが(やはり人と接する機会が少ない仕事だ)、トラウマのない生活が送れるようになるまでには20年近くかかった。
退役軍人省と軍は、戦場で人を殺すことが兵士の心や社会性にダメージを与え、自殺の引き金になり得ることを認めたがらない。だがアフガニスタンとイラクからの帰還兵に自殺者が多く、それが大きな懸念事項であることは否定できない。
少し前までは、軍での厳しい訓練や規律には自殺を防ぐ効果があると考えられていた。退役軍人省デンバー支部(コロラド州)で自殺問題を研究するピーター・グティエレズは、2回以上の戦地派遣とその間隔の短さが「自殺リスクを高めるとは言い切れないが、何らかの影響があることは否定できない」と言う。「軍事訓練にはもはや十分な自殺防止効果がないのかもしれない。ただしそれを裏付けるデータはない」
「証拠がない」は研究者や現場の人間の決まり文句だ。だが未熟な青年たちに人の殺し方を教えて何度か戦場に送り込めば、帰還するときには別人になっていてもおかしくない。彼らは武器や暴力を使って問題を解決することが100%許されると思うようになっている。
軍の医療関係者の多くが口を閉ざすなか、率直に話してくれた医師が2人いた。1人はベトナム戦争時代から帰還兵を診てきたジョナサン・シェイ医師。シェイは、現代の兵士は戦場に2回以上送られることで、道徳観念にダメージを受けると言う。
無視される帰還兵の存在
戦場で失敗をしたり、上官から適切な指示が与えられなかったりすると、兵士は戦場の強烈なストレスに対処するため、仲間への信頼や善悪の観念を捨てる。連続的な派遣でそれが繰り返されると、その心理状態は一種の癖になる。だから平和な生活に戻っても、異常に警戒心が強く、誰も信用しない。そして生きていくのがつらくなる。
一方、スタンフォード大学ストレス保健センターのデービッド・スピーゲル医師は、政府のせいで国民が戦争の現実に対して無知になったと語る。「帰還した兵士たちは、自分が理解されていないと感じている」
外国で戦死した兵士の棺は、デラウェア州のドーバー空軍基地経由で故郷に運ばれる。だがブッシュ政権は、基地に到着した棺の写真公開を禁じた。そうなると国民はこうした写真を目にする機会さえないから、戦死者や戦争について考えるきっかけを1つ失うことになる。