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アメリカ社会不法移民を救う「夢」はまた消えた
国で生まれ、幼い頃に不法入国した親に連れられてアメリカに来たため、どれほど優秀でもまともな就職さえできず、常に強制送還リスクに怯えている──。そんな「優良不法移民」を救済するオバマ政権肝煎りの移民制度改革案が先週、土壇場で否決された。
「ドリーム法」と呼ばれるこの法案が成立すれば、16歳以前に入国した不法移民で犯罪歴がなく、2年以上大学で学ぶか軍に入隊するといった条件を満たした者は永住権を申請できるようになるはずだった。
01年の法案提出以来、何度も棚上げにされてきたが、ここにきて流れが一気に加速し12月8日に下院を通過。しかし翌日に予定されていた上院の採決は、共和党と一部民主党議員の強い反対で先送りになっていた。
民主党が法制化を急いだ背景には、2年後の再選に向けヒスパニック系有権者の支持をつなぎ留めたいオバマ大統領の意向もあった。1月に始まる新たな議会では、中間選挙で勝利した共和党が下院の過半数を占めるため、年内が法案成立の最後のチャンスだった。
ドリーム法が成立すれば、全米で80万人ともいわれる優秀な若い不法移民に社会参加の道が開かれるはずだった。米軍の新兵採用活動への強力な後押しになるとの期待もあった。
優良不法移民がカミングアウト
だが反対派に言わせれば、不法移民に「恩赦」を与える行為はさらに多くの不法移民を呼び寄せる結果を招きかねない。大学か軍隊かという事実上の二者択一を突き付けることで、貧困層の若者に軍への入隊を強いることにもなる。
さらに、兵役を全うしても永住権を認められないケースが多そうなことも問題とされた。共和党の反対を抑え込むため提出された修正法案で、永住権取得の要件が厳しくなったためだ。
それでも法案成立を求める草の根運動は盛り上がった。テキサス大学など各地の大学で学生がハンガーストライキに突入。不法滞在者の若者の「カミングアウト」も相次いだ。
年内に必ず採択する、と民主党のハリー・リード上院院内総務は強気だった。だが核軍縮条約「新START」の批准など、年内に成立させたい重要法案はめじろ押し。国民の55%が法案に賛成しているとはいえ減税に比べると関心は低く、共和党への圧力にはならない。米軍の同性愛者受け入れ法は上院を通過したが、ドリーム法は結局否決された。
不法移民の長年の悲願は、今回も「夢」に終わってしまった。
[2010年12月29日号掲載]