「モロ見えスキャナー」が目指す次なる進化
「全裸撮影」か係官の「お触り」か、究極の選択に激怒した米世論にスキャンメーカーが出した答えは
世界の流れ 全身透視スキャナーの使い方を実演する係官(ドイツのハンブルク空港で Christian Charisius-Reuters
各地の空港で導入が進んでいる全身を透視するX線検査装置(全身透視スキャナー)をめぐり、アメリカでは議論が沸騰している。
批判的な人々は全身透視スキャナーのことを「性器映像化装置」などと呼んでいる。この手の装置を通してピーター・カントの体の凹凸をつぶさに見た時、私はまさにぴったりの呼び名だと思った。
ピーター・カントは全身透視スキャナーのメーカーであるラピスキャン社の上級副社長。私たちはワシントン近郊のバージニア州アーリントンにある同社のオフィスの1室にいた。全米70の空港で使われている「ラピスキャン・セキュア1000」という全身透視スキャナーの実演のためだ。
大きな青い箱型の装置が2つ、黄色い足型のついたゴムマットをはさんで置かれている。カントはためらうことなくマットの上に飛び乗り、両手を頭の上に挙げた。
10秒かそこらでスクリーンに画像が映し出された。ゆったりしたスーツの上からは分からないが、カントの腹にベルトが食い込んでいる様子がしっかり映っている。
画像は写真とは異なり、乳首が見えるほど高精細ではなかった。だが陰部の形ははっきり見えた。ここまで体を張っているカントに会社から「特別手当」が出ていることを祈るのみだ。
カントによれば、空港では専用ソフトウエアが怪しい物を検知しない限り、画像はほんの数秒しか表示されない。セキュア1000には画像を保存する機能もない。
とはいえ空港のセキュリティーチェックに対する世間の反発は、搭乗客の体が映像化されることにも及んでいる。これはラピスキャンにとっては頭の痛い問題だ。最近では、ノンポリもヒッピーも自由主義者も、政治的に右のメディアも左のメディアも、みんなが空港のセキュリティーチェックに批判の声を上げている。
スキャナーメーカーの業績は好調
感謝祭の旅行シーズンを迎えて盛り上がる世間の反発に対し、ラピスキャンは2本立ての理論で反論している。
まず第一に、自社はあくまでも検査装置のメーカーに過ぎないとラピスキャンは主張している。納入先がそれをどう使うかには口を出していないし、スキャナーの利用を拒んだ搭乗客に対して、米運輸保安局(TSA)の係官が手で身体の微妙な部分にまでタッチする身体検査を行なうと決めたこととも何ら関係ないというわけだ。
2つ目は、ラピスキャンは今後さらに進化したスキャナーを作ろうとしているということ。セキュリティーチェックをめぐる空港利用者の負担軽減に向けて努力している点を、同社は必死で世間に伝えようとしている。
最近の空港のセキュリティーチェックに対する世間の反発を別にすれば、ラピスキャンは「わが世の春」を謳歌している。セキュリティー関連企業にとってテロと戦争はビジネスチャンスだからだ。
ちなみにラピスキャンは手荷物や貨物、郵便物、輸送用コンテナ用のスキャナーも製造しており、対人検査用のスキャナーは同社の事業の中でそれほど大きな割合を占めてはいない。
それでも人間用スキャナーのビジネスは拡大しており、1年前に同社はセキュア1000の納入契約(総額1億7300万ドル)をTSAと結んだ。来年末までに全米各地の空港に1000ユニットを納入する予定だ。
ラピスキャンの親会社であるOSIシステムズ社の株で資金運用している投資家たちも、メディアの全身透視スキャナー叩きに動じる様子はほとんどない。同社の株価は最近、少し下がった後再び上昇に転じた。
一部のメディアや評論家は、OSIのCEO(最高経営責任者)がバラク・オバマ米大統領のアジア歴訪に同行したことや、マイケル・チャートフ前国土安全保障長官がかつて、同社の利益に沿った発言をした点を取り上げ、同社のロビー活動や政府とのつながりを問題視している。
ただしOSIは、自社が不適切な活動を行なったというまともな指摘はどこにもないと強く主張している。