最新記事

米社会

シニアもセックスに夢中

高齢男性の40%、女性の17%が定期的にセックス。ベビーブーマーが老人ホームを「性の楽園」に変える日も近い

2010年11月9日(火)13時48分
ジョン・タッカー

『ラブ・ランチ』で、65歳の女優ヘレン・ミレンが演じたのは初老の売春宿の女主人。熱いベッドシーンを披露しただけでなく、ミレンは映画のプロモーションのためトップレスでニューヨーク誌に登場、ネット上で称賛を浴びた。

 ミレンはセックスに積極的な今どきの高齢者の象徴だ。「高齢者はセックスに関心があり、おそらく実際にセックスするケースも増えている」と、シカゴ大学老化研究センターのナタリア・ガブリロバは言う。ガブリロバらの研究によれば、75~85歳の男性の40%近く、女性の17%近くが定期的にセックスをしており、さらにそのうちの男性の71%、女性の51%が質の高い性生活を送っているという。

 全米退職者協会(AARP)の調査では、45歳以上の40%が1カ月に最低1回はセックスをしている。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究は、高齢の女性の場合、セックスの回数が減るのは性欲がないからではなく、健康上の理由が原因かもしれないと示している。

 これまでセックスに関する研究で高齢者が見落とされてきた背景には、高齢者に対する差別もあるようだ。「高齢者はセックスをしないと研究者が決め付けていた可能性がある」と、調査を実施したカリフォルニア大学サンフランシスコ校のアリソン・ホアンは言う。

 研究報告を待つまでもないという声もある。「疑う余地はない。高齢者はこれまでになくセックスをするようになっている」と、『ドクター・ルースの50代からのセックス』の共著者ルース・ウェストハイマーは言う。

 ウェストハイマーによれば、タブーはなくなり、多くの高齢者が高齢者なりのセックスの方法を見つけている。例えば、男性ホルモンのテストステロンは午前中に多く分泌されるので、朝食の直後にセックスをするのもその1つだ。

 少なくとも女性にとっては、60歳からのセックスのほうがいい面もある。「かえってのびのびとできるかも。予定外の妊娠にもびくびくしなくて済む」と、コラムニストのコニー・シュルツは更年期についてのコラムで書いている。

 もうすぐ老人ホームにはベビーブーム世代が押し寄せる。この世代は上の世代より自信もカネもあって健康で、価値観もリベラルだ。AARPの調査によると、45歳以上の男女で婚外交渉に反対する人はわずか22%(10年前は41%)。老人ホームにカウチと暖炉と「取り込み中」のサインを完備した「愛の巣」を用意すベきとウェストハイマーは提案している。

老人ホームでコンドーム

 とっぴとも思えるこの発想に、老人ホームは理解を示し始めている。ニューヨークの介護施設「ヘブルーホーム」は、高齢者(認知症やアルツハイマー病患者も含む)の性的権利とニーズを尊重する。ここではポルノを見てもOK、セックス中のカップルの部屋に入ってしまったスタッフは黙って部屋を出て行く。「臨床ケアは生活の質を重視すべき」だと言う責任者のロビン・デッセルは、いつかコンドームを配る日が来るかもしれないと考えている。「ここはホームであって病院じゃない。大切なのは楽しく生きること」

 エンターテインメント業界も変わり始めている。アリゾナ州の高齢者タウンを舞台にしたリアリティー番組『サンセット・デイズ』では、バイブレーターやノーパンの話題も登場する。ニック・ファクラー監督の映画『やさしい嘘と贈り物』では、当時80歳のマーティン・ランドーが75歳のエレン・バースティンとベッドイン。ジュリー・クリスティー主演の映画『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』も、愛とアルツハイマー病の問題に取り組んでいる。

「ハリウッドは新たな市場に気付いた」と社会学者のペッパー・シュワーツは言う。「高齢のカップルが主役でも大丈夫と納得した」

ミレンが75歳でヌードになっても、きっと誰も文句は言わないだろう。

[2010年10月13日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中外相が会談、水産物の輸入再開「進展を確認」と岩

ワールド

マスク氏、国防総省と異例の会談 情報漏えい者の起訴

ビジネス

アングル:中国低迷やインフレが販売直撃、デザイナー

ワールド

日中韓外相会談、「未来志向の協力確認」と岩屋氏 サ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔平が見せた「神対応」とは? 関係者に小声で確認していたのは...
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 6
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 7
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 8
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 9
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 7
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 8
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 9
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 10
    ローマ人は「鉛汚染」でIQを低下させてしまった...考…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中