最新記事

米保守派

反インテリのペイリン子分が学歴詐称

ペイリンの支持を受ける上院議員候補オドネルの学歴詐称で明らかになった保守派の偽善とコンプレックス

2010年9月29日(水)18時03分
ベン・アドラー(ジャーナリスト)

矛盾だらけ 名門大学出身者を攻撃するくせに学歴に執着するオドネル Jonathan Ernst-Reuters

 アメリカの保守派や共和党は他人の学歴には懐疑的で、経済エリートは認めるくせに文化エリートに対して軽蔑的な態度をとる。特にバラク・オバマ大統領と彼が要職に起用した人々の輝かしい高学歴などは我慢ならず、いつもさげすんでいる。

 それだけに、サラ・ペイリン元アラスカ州知事や保守派の草の根団体ティーパーティーの支持で共和党の上院議員候補(デラウェア州選出)に選ばれたクリスティン・オドネルが3度目の学歴詐称を指摘されたのは、まさに皮肉。ワシントン・ポスト紙のグレッグ・サージェントはこう書いている。


 オドネルはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のリンクトインの自己紹介ページで、自分が通った学校の1つに「オックスフォード大学」を挙げ、「新世紀のポスト・モダニズム」を学んだと書いている。

 しかし、それはフェニックス・インスティチュートという教育機関が単にオックスフォード大学の敷地を借りて実施した夏期セミナーにすぎなかったことが判明した。このセミナーを監督した女性は、オドネルのオックスフォードで学んだという主張は「誤解を招く恐れがある」と語る。

 これだけなら大した問題ではないかもしれない。だが彼女は既に学歴を1度のみならず2度も誤魔化していたことが明らかになっている。数年前には、フェアリー・ディキンソン大学「卒業」としていたが、彼女が実際に学士号を取得したのは昨年の夏だ。さらには、プリンストン大学で修士号の取得を目指していると語っていたこともあったが、後にプリンストンの大学院で授業を受けたことさえなかった事実を認めた。

ほしくてたまらない高学歴

 実に皮肉だ。学歴詐称がばれたことだけではない。プリンストンに通ったと嘘をついたオドネルのほうが、実際にオックスフォードやプリンストンを卒業した人よりよほど「エリート主義者」だということもバレてしまった。
 
 保守派の人気トークショー司会者ラッシュ・リンボーらは、ハーバード大学法科大学院出身のエレーナ・ケーガン連邦最高裁判事をエリート主義者だと非難した。だがそこに通ったという事実だけでは、彼女が人の価値は学歴で決まると考えている証拠にはならない。もちろんそう考えている可能性も否定できないが、ハーバードに通ったという事実から判断できるのは、彼女がそこでの教育を望んだということだけだ。(公立ではなく授業料の高い私立を選んだのはエリート主義だ、とまだしつこく反論してくるかもしれないが、その主張は右派的ではなく、左派でポピュリスト的だ)

 一方、年をとってからプリンストンやオックスフォードに通ったと嘘をつくのは、その経歴がほしくてたまらないからだ。そんなかわいそうな自信のなさはさておき、これは若い時に得た学歴で中年層の実力が定義されるべきだと考えるエリート主義の表れにほかならない。さらに言えば、最高の大学とは、もともとキリスト教徒の白人男性だけが入学を許された古くて学費の高い学校だとする偏狭な見方の表れでもある。

 宇宙や生命の起源は神だとする創造論を信じるオドネルは、進化論を説く自然科学の学者に噛みつく。相手が生物学の博士号をもっていようと、神を信じる人々のほうが正しいと主張し、進化論が嘘でないと言うなら「今現在ヒトに進化しているサルはどこにいるの」とまで言うオドネルだからこそ、学歴詐称は二重の裏切りだ。

 ラッシュ・リンボーはよくエリート校出身者を浮世離れしていると非難するが、本当に「ずれて」いるのはオドネルのほうではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中