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ペイリン、得意の造語でイスラム差別?

火に油を注ぐ女ペイリンが9・11現場近くのモスク建設計画をめぐる論争に乱入、賛否の渦に

2010年7月21日(水)17時57分
Newsweek

期待大 英語力は「?」でも、次期大統領に待望する声は根強い Rebecca Cook-Reuters

 すでに激しい論争になっているテーマについて、火に油を注ぎたいときはどうするべきか。答えは簡単。前回の大統領選で副大統領候補だったサラ・ペイリンを足せばいい。

 今回、ペイリンが首を突っ込んだ話題は、9・11テロの現場になったマンハッタンの「グラウンド・ゼロ」付近にイスラム教徒が集うモスクとコミュニティーセンターを建設するという計画だ。建設反対派に言わせれば、イスラム過激派のテロリストが引き起こしたテロの現場近くにムスリムの拠点を築くなんて挑発行為だ。一方、賛成派は、建設費を提供するのはイスラム穏健派のグループだし、グラウンド・ゼロのすぐ脇に建設されるわけではないと主張する。

 ペイリンは先週末、この論争にツイッターで参入した。「グラウンド・ゼロのモスク建設計画に賛成する人々よ、あなたの胸は痛まないのか。私たちの心は激しく痛んでいる。平和を愛するムスリムたちよ、どうか"refudiate"(反対)してほしい」("repudiate"<拒絶する>と"refute"<異議を唱える>を組み合わせた表現で、造語や言い間違いが多いペイリンらしい)。

 ペイリンの主張と"refudiate"という新語のおかげで、ネット上では予想通りの激しい論争が繰り広げられた。典型的な反応を紹介しよう。

■激怒
「リトル・グリーン・フットボールズ」というブログ(この数カ月で右派から左寄りにシフトしているようだ)を運営するチャールズ・ジョンソンは、ペイリンが「反ムスリムの偏屈者」の仲間入りをしたと激しく非難。建設予定地はグラウンド・ゼロに隣接しているわけではないし、仮に隣接していたとしても問題ないと批判している。


 ムスリムのコミュニティーセンターが(グラウンド・ゼロから)2ブロックでなく5ブロック離れていたら大丈夫? (さらに離れたマンハッタン中部の)ミッドタウンだったら十分に遠い? それとも(マンハッタンを出て)クイーンズまで行かなければダメ? アメリカの宗教的な寛容さに特別な例外を求めるのなら、どこで線を引くというのか。


■感動
 モスク建設計画をめぐる発言について、どこからが人種差別や偏見に当たるのかを議論する価値はあると、アトランティック誌のクリス・グッド記者は認める。それでも、これほど微妙な問題について明確に反対を表明するペイリンの姿勢は、彼女の強い意思と自信の表れだと評価するという。


 宗教と怒りと恐怖が絡んだ熱いテーマに取り組む際には、大抵の政治家は細心の注意を払うもの。だがペイリンは何も恐れることなく、言葉に注意することもなく、論争になっても構わないという態度で直球勝負する。彼女はそうしたやり方に自信をもっており、今回の論争でもその姿勢は全くブレていない。


■失望
 一方、グッドの反応は的外れだと、英ガーディアン紙のサイトで指摘したのは、リベラル派のアメリカ人ジャーナリスト、マイケル・トマスキー。ペイリンの意見自体が悪いわけではないが、自身の影響力を対話の促進に役立てようとしなかった点が問題だという立場だ。


 一部の人の声を代弁するのではなく、多様な政治的立場の人からなる社会を率いる本物の指導者は、宗教施設の建設とテロ攻撃の容認がまったく別物だと指摘すべき立場にあるのではないか。

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