最新記事

国勢調査

アメリカ「1億人増」で元気な未来

多くの国で人口が減少に向かうなか、40年以内に4億人を超えるアメリカでは働き盛りが激増する

2010年5月31日(月)14時27分
ジョエル・コトキン(米チャップマン大学都市未来学フェロー)

 アメリカでは今年、10年に1度の国勢調査が行われている。国勢調査局はテレビCMを流し続け、調査票を早く提出してほしいと訴えている。

 しかし今回の調査結果を待たなくても、アメリカの人口が今後どう推移するかは予測がつく。2050年までに約1億人増え、4億人を超えることは確実だ。

 アメリカの合計特殊出生率(女性1人が一生に産む子供の数)は、ロシアやドイツ、日本の約1.5倍だ。中国やイタリア、シンガポール、韓国、東欧諸国と比べても、相当に高い。

 アメリカの人口動向は世界でも例外的だ。多くの国では人口がピークを迎え、減少に転じようとしている。

 30年前、ソ連の人口はアメリカを大きく上回っていた。だが、その中核を成していたロシアの人口は今、低い出生率と高い死亡率のせいで、50年までに30%減るとみられている。

 そうなると、実数ではアメリカの3分の1になる。強気なウラジーミル・プーチン首相までもが「斜陽国家に転落する危険性」を口にしている。
 さらに注目すべきなのは、アメリカと東アジア諸国の間に生じている差かもしれない。

雇用創出がカギを握る

 韓国や台湾、香港、シンガポールの経済がこの数十年で大躍進を遂げ、「アジアの虎」とうたわれた裏には労働人口の急増があった。しかし、これらの国では50年までに、65歳以上の高齢者が人口の3分の1以上を占めると予測されている(アメリカでは5分の1にとどまる)。

 国連の推計によれば、中国では50年までに人口の約30%が60歳以上になる。社会保障制度が整っていない中国では、急速に進展する高齢化によって貯蓄高が大きく減り、国民1人当たり所得も減少に向かうだろう。

 貧しい国なら、人口増のペースが鈍っても悪いことばかりではない。短期的には経済や環境にプラスになることもある。だが先進国では、社会にも経済にもいいことはまったくない。

 アメリカでは00年からの半世紀に、15〜64歳の人口(労働力の中核であり、学校で学ぶ年齢層も含まれる)が42%増える。だが中国では、その人口が同じ期間に10%減る。ヨーロッパでは25%近く、日本では44%減るとみられる。

 こうなると、経済の動きも変わってくる。アメリカ経済が急ぐべきなのは、高齢者のニーズに対応することではない。拡大する労働力に見合う雇用を創出し、所得を拡大することだ。

 若い働き盛りの多い人口構成をアメリカが生かせるかどうかは、民間部門が雇用を創出できるかどうかに懸かっている。失業者が1500万人を超える今は、とりわけ重要な問題だ。

 ここで移民がひと役買うかもしれない。90〜05年にアメリカで株式公開したベンチャー企業のうち、4分の1は移民が設立したものだった。この起業家精神は実に大きな意味を持つ。いまアメリカの雇用の受け皿は、巨大企業から個人事業主に移っている。個人事業主は80〜00年に10倍に増え、労働力全体の16%を占めるようになった。

基幹産業の役割が重要

 雇用を創出するために、アメリカはハイテク産業ばかりでなく建設、製造、農業、エネルギーといった基幹産業にも注目する必要がある。基幹産業は、拡大するブルーカラー(生産現場労働者)の大きな受け皿だ。

 基幹産業を拡大し、そこで働く人たちの技能の底上げに力を注げば、大学を出ていない労働者にもチャンスが開ける。

 基幹産業は新たな輸出を生み出す技術革新の土台にもなるし、国内の投資機会を増やすためにも重要な存在だ。

 いまアメリカに必要なのは、この国が持つ起業家精神を結集し、それを政府が後押しすることだ。そうすれば、アメリカは恵まれた人口構成を生かし、向こう40年間、元気でいられる。

 裏を返せば、もしここで何もしなかったら、後世の国民は2010年の政府を厳しく批判することになる。      

 (筆者は近著に『次の1億人──2050年のアメリカ』がある)

[2010年5月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、日本の自衛隊統合演習に抗議 「国境近くで実

ワールド

トランプ氏、カナダとの貿易交渉再開を否定

ビジネス

情報BOX:大手証券、12月利下げを予想 FRB議

ワールド

米中エネルギー貿易「ウィンウィンの余地十分」=ライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中