最新記事

航空機

米政府公認「武装パイロット」の危険度

9.11以降に始まった米政府の武装パイロット養成プログラムの参加者らしき容疑者が、「派手に自殺してやる」と宣言して逮捕された。危ない操縦士は彼だけなのか

2010年5月26日(水)15時39分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

自衛したい 武装プログラムは、乗っ取られたとき無防備でいたくないというパイロットらの要請で始まった Hyungwon Kang-Reuters

 9・11テロの後、連邦政府はパイロットを武装させるプログラムを発足させた。正式には「連邦航空保安官(FFDO)」の養成プログラムだ。これまでに失格したパイロットや客室乗務員は約50人だと、国土安全保障省の報道官は本誌に語った。失格の理由については、「標準の運用手順」に「違反」したから、としか言えないという。

 この独占情報が明らかになったのは、先週、米格安航空ジェットブルーのパイロットがボストン・ローガン国際空港で逮捕される事件があったからだ。ボストンのラジオ局WBZのウェブサイトによれば、このパイロットは「派手なやり方で」自殺してやると宣言したという。空港の連邦保安局責任者ジョージ・ナッカラは、WBZに次のように語っている。「飛行機を落とすとは一度も言っていない。自殺すると言っただけだ。それも『派手なやり方で』。だが墜落させるとか、他の誰かを傷つけるようなことは言っていない」

誤って飛行中に発砲した乗員も

 マサチューセッツ州警察の広報担当者、デービッド・プロコピオが本誌に語ったところによると、自殺の脅しはテキストメッセージで送信され、州警察や連邦航空警察が空港のパイロット専用ラウンジで彼を見つけたとき、彼は弾をこめた銃をもっていた。パイロットは銃を警察に渡し、病院に運ばれた(精神鑑定も行われることになる、と警察は言う)。

 プロコピオによれば、州の検事局はこのパイロットを起訴しない方針だ。警察関係者によれば、FFDOの一員として銃を所持していたのであれば犯罪の立件はほとんど不可能だと言う。

 FFDOプログラムを所管する国土安全保障省運輸保安庁(TSA)の報道官、スターリング・ペインは、逮捕されたパイロットがこのFFDOの一員かどうかのコメントを拒否した。「安全上の理由から、TSAはFFDOの参加者が誰かを明かすことはできない」のだと、ペインは言う。だが航空安全行政に詳しい連邦職員2人は匿名を条件に、このパイロットがFFDOの一員であることを確認した。

 TSAによれば、FFDOからの脱落者の比率は参加者の0.5%に過ぎないという。また航空行政当局によれば、現在FFDOに参加しているパイロットや航空士、航空機関士は1万人以上にのぼるという。だとすれば、これまでの脱落者はざっと50人になる。航空行政当局によれば理由はさまざまで、射撃試験に落ちた者もいれば、飛行中に誤まって発砲したパイロットもいたという。

軍歴があるから銃の扱いも楽勝?

 政府関係者によれば、FFDOに参加しているのは射撃訓練や自衛訓練で乗っ取り犯の攻撃をかわせる能力を身に付けたいと志願したパイロットなどの運行乗務員たちだという。政府はパンフレットで、FFDOの訓練は肉体的に厳しく、訓練費用も自腹であることを警告している。

 9・11テロ後多くのパイロットが、シートベルトを締めた状態で襲われれば無防備すぎると不満を表明したのを受けて、FFDOは始まった。パイロットたちの言い分では、彼らの多くは軍人の経歴をもっているので、銃を持って自衛する資格は十二分に備わっているという。国土安全保障省は今でも、国内線と国際線の両方に武装した航空警察を配置しているが、彼らは客室にいてコックピットにはいない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国産大豆購入は関税撤廃が条件、中国商務省報道官が

ビジネス

ドルの地位、関税で低下も 現時点では基軸通貨の座を

ビジネス

トヨタが実証都市での実験開始、300人まず入居 最

ビジネス

独経済、向こう2年間で勢い回復へ 主要研究所が予測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    トランプの支持率さらに低下──関税が最大の足かせ、…
  • 9
    トランプは「左派のせい」と主張するが...トランプ政…
  • 10
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 10
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中