原油流出を止めるBPの仰天アイデア
メキシコ湾の爆発事故から3週間。失敗を重ねた挙げ句、ゴミやロボット、干し草を使うアイデアが浮上。バカバカしすぎて逆にうまくいくかも?
被害は甚大 米ルイジアナ州のシャンデルア諸島にはオイルフェンスが設けられたが(5月7日) Brian Snyder-Reuters
4月20日に米ルイジアナ州沖のメキシコ湾で起きた、英石油メジャーBPの原油掘削施設の爆発事故。現場からの原油流出を食い止めるため、5月8日には巨大なドーム状構造物をかぶせる作業が行われたが失敗に終わった。沿岸の住民は落胆し、BPの技術担当者たちは対策に躍起になっている。
幸い、BPには複数の代替案がある。どの案も一見すると、熱病にうなされた人か徹夜続きの人が考えたように思えるが、10日の記者会見を見る限り、BPは大真面目だ。主な代替案をチェックしてみよう。
■ミニドーム案
8日に失敗したのと同じようなドーム状構造物を、原油が流出している3カ所のうち1カ所にかぶせる案だが、構造物のサイズはかなり小さめ。かぶせた構造物にたまった原油を上部についたパイプを通じて海上へくみ上げ、回収する仕組みだ。うまくいけば1週間もかからずに回収作業を始められるはずだ。
長所 8日に失敗した原因は、構造物の内部にガスと水が結合してでき氷状の結晶が形成され、原油をくみ上げる穴をふさいでしまったため。この結晶は低温下で水とガスに大きな圧力がかかると形成される。
ミニドーム案は構造物が小さいので、同様の問題が生じるリスクは低くなると技術者たちは期待している。また8日のプランでは構造物を沈めた後に原油をくみ上げるパイプを設置することになっていたが、今回はパイプを最初から設置。そこから凍結防止用のメタノールを注入して結晶の形成を防ぐ。
短所 原油の流出を一部しか食い止められない。先ごろ失敗した案で用いた構造物は、全流出量の約85%を回収できるはずだった。ミニドーム案の場合はサイズが小さいので、成功しても回収量は大幅に少ないだろう。
評価 ミニドーム案が期待通りの効果を発揮するかどうかは微妙だが、これ以上事態を悪化させる可能性は低い。たとえ原油の流出自体を食い止められず、限られた量の原油しか回収できなかったとしても、海に流出する量を少しでも減らせるなら、行う価値はある。
■ゴミ詰めこみ案
破れかぶれの対策のように、この案こそ最善の策になるかもしれない。大量のゴミを防噴装置(BOP)に注入して原油の流出を食い止め、さらに泥やコンクリートを注入して油井を完全に封印する方法だ。BPのダグ・サトルズ最高執行責任者(COO)いわく、注入するゴミはゴルフボールやタイヤ、結び目を作ったロープなど、「厳選されたもの」になるという。
長所 2週間以内に原油の流出を完全に止められるかもしれない。
短所 BPはBOPのテストをいろいろと行った結果、リスクはほとんどないと自信を見せている。だがこの案を採用したことで事態が悪化し、原油流出量がこれまで以上に増える可能性もわずかにある。11日の米上院公聴会でBPが行った説明によると、原油流出量は最大で1日6万バレル(約950万リットル)になる可能性がある(現時点では1日約80万リットルとされる)。
評価 ここは専門家の経験と知識を信じるしかない。万が一、原油がもっと流出する事態を招けば大惨事だが、この案は原油流出を完全に止める可能性を秘めている。
■ホットタップ案
この案はまだ検討中で優先順位が低いため、BPの説明も明確ではなかった。基本的には遠隔操作できるロボットを使って、原油を海上へくみ上げるパイプを海中で取りつける方法だ。
長所 原油もガスも海水に接触しないので、結晶の形成を防げる。
短所 破損した掘削パイプに新たな穴を開けることになるので、潜在的なリスクがある。