最新記事

事故

原油流出を止めるBPの仰天アイデア

メキシコ湾の爆発事故から3週間。失敗を重ねた挙げ句、ゴミやロボット、干し草を使うアイデアが浮上。バカバカしすぎて逆にうまくいくかも?

2010年5月12日(水)18時28分
イアン・ヤレット

被害は甚大 米ルイジアナ州のシャンデルア諸島にはオイルフェンスが設けられたが(5月7日) Brian Snyder-Reuters

 4月20日に米ルイジアナ州沖のメキシコ湾で起きた、英石油メジャーBPの原油掘削施設の爆発事故。現場からの原油流出を食い止めるため、5月8日には巨大なドーム状構造物をかぶせる作業が行われたが失敗に終わった。沿岸の住民は落胆し、BPの技術担当者たちは対策に躍起になっている。

 幸い、BPには複数の代替案がある。どの案も一見すると、熱病にうなされた人か徹夜続きの人が考えたように思えるが、10日の記者会見を見る限り、BPは大真面目だ。主な代替案をチェックしてみよう。

■ミニドーム案
 8日に失敗したのと同じようなドーム状構造物を、原油が流出している3カ所のうち1カ所にかぶせる案だが、構造物のサイズはかなり小さめ。かぶせた構造物にたまった原油を上部についたパイプを通じて海上へくみ上げ、回収する仕組みだ。うまくいけば1週間もかからずに回収作業を始められるはずだ。

長所 8日に失敗した原因は、構造物の内部にガスと水が結合してでき氷状の結晶が形成され、原油をくみ上げる穴をふさいでしまったため。この結晶は低温下で水とガスに大きな圧力がかかると形成される。

 ミニドーム案は構造物が小さいので、同様の問題が生じるリスクは低くなると技術者たちは期待している。また8日のプランでは構造物を沈めた後に原油をくみ上げるパイプを設置することになっていたが、今回はパイプを最初から設置。そこから凍結防止用のメタノールを注入して結晶の形成を防ぐ。

短所 原油の流出を一部しか食い止められない。先ごろ失敗した案で用いた構造物は、全流出量の約85%を回収できるはずだった。ミニドーム案の場合はサイズが小さいので、成功しても回収量は大幅に少ないだろう。

評価 ミニドーム案が期待通りの効果を発揮するかどうかは微妙だが、これ以上事態を悪化させる可能性は低い。たとえ原油の流出自体を食い止められず、限られた量の原油しか回収できなかったとしても、海に流出する量を少しでも減らせるなら、行う価値はある。

■ゴミ詰めこみ案
 破れかぶれの対策のように、この案こそ最善の策になるかもしれない。大量のゴミを防噴装置(BOP)に注入して原油の流出を食い止め、さらに泥やコンクリートを注入して油井を完全に封印する方法だ。BPのダグ・サトルズ最高執行責任者(COO)いわく、注入するゴミはゴルフボールやタイヤ、結び目を作ったロープなど、「厳選されたもの」になるという。

長所 2週間以内に原油の流出を完全に止められるかもしれない。

短所 BPはBOPのテストをいろいろと行った結果、リスクはほとんどないと自信を見せている。だがこの案を採用したことで事態が悪化し、原油流出量がこれまで以上に増える可能性もわずかにある。11日の米上院公聴会でBPが行った説明によると、原油流出量は最大で1日6万バレル(約950万リットル)になる可能性がある(現時点では1日約80万リットルとされる)。

評価 ここは専門家の経験と知識を信じるしかない。万が一、原油がもっと流出する事態を招けば大惨事だが、この案は原油流出を完全に止める可能性を秘めている。

■ホットタップ案
 この案はまだ検討中で優先順位が低いため、BPの説明も明確ではなかった。基本的には遠隔操作できるロボットを使って、原油を海上へくみ上げるパイプを海中で取りつける方法だ。

長所 原油もガスも海水に接触しないので、結晶の形成を防げる。

短所 破損した掘削パイプに新たな穴を開けることになるので、潜在的なリスクがある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

日中外相が会談、水産物の輸入再開「進展を確認」と岩

ワールド

マスク氏、国防総省と異例の会談 情報漏えい者の起訴

ビジネス

アングル:中国低迷やインフレが販売直撃、デザイナー

ワールド

日中韓外相会談、「未来志向の協力確認」と岩屋氏 サ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 2
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔平が見せた「神対応」とは? 関係者に小声で確認していたのは...
  • 3
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 6
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 7
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 8
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 9
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 7
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 8
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 9
    ローマ人は「鉛汚染」でIQを低下させてしまった...考…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中