最新記事

米安全保障

不安だらけのオバマ新核戦略

米政権の新戦略では、核兵器の役割を大幅に縮小する一方でミサイル防衛システムに重点が置いているが

2010年4月7日(水)18時37分
ジョシュ・ローギン

もう核には頼らない 「核兵器のない世界」を目指すと演説したオバマ(09年4月、プラハ) Jason Reed-Reuters

 オバマ政権は、弾道ミサイル防衛システムを世界に配備しようとした過去の政権の取り組みに懐疑的な姿勢を示してきた。なのに、4月6日に発表された米核戦略の指針となる「核体制の見直し(NPR)」では、ミサイル防衛が中核に位置づけらていた。

 アメリカが核兵器から距離を置くためには、ミサイル防衛が重大な意味を持つと、NPRは指摘している。核拡散防止条約(NPT)を順守する非核保有国が生物・化学兵器などで攻撃してきても、アメリカは核攻撃を行わないという方針を今回示したことを考えればなおさらだ。

 NPRには、07年にイージス艦から発射された迎撃ミサイルの写真も掲載されている。この発射実験は、アメリカが防衛だけでなく、人工衛星の撃ち落としなど攻撃の手段としても迎撃ミサイルを活用できることを明確に示すものだと見る専門家が多かった。

「アメリカは世界一の軍事力を誇りながらもミサイル防衛の改善を進め、(生物・化学兵器による攻撃の)効果を抑止する能力を高めてきた。その結果、従来型兵器や生物・化学兵器による攻撃を抑止するうえで核兵器が担うべき役割は大幅に軽減した」と、NPRには記されている。

ロシアや中国が募らせる懸念

 NPRの後半部分では、ロシアと中国の核兵器の近代化が取り上げられ、両国がアメリカのミサイル防衛システムの拡大を世界情勢の不安定化を招く要因とみていると指摘している。

 ミサイル防衛はあくまで核兵器を用いない攻撃への対抗手段の一つにすぎないと、慎重な姿勢をうかがわせるくだりもある。しかし、ヒラリー・クリントン米国務長官はそれほど慎重ではなかった。4月6日の記者会見では、「世界の国々がアメリカのミサイル防衛計画を注視していることは明らかだ」と発言。「核拡散と核を用いたテロ攻撃を抑止するうえで(ミサイル防衛が)果たすべき役割」がNPRの中では重視されていると説明した。

 なるほど。ではミサイル防衛が生物・化学兵器による攻撃も核拡散も、スーツケース爆弾も防いでくれるのだろうか?

 今後、米ロ間で新たな核軍縮条約が結ばれアメリカの核兵器の配備が縮小されるうえ、核兵器は核攻撃のみに対処する手段となる。その結果生まれる「隙間」を埋める選択肢の一つとして、オバマ政権がミサイル防衛を重視しているのは明らかだ。「アメリカの国防戦略において核兵器の役割が削減されるにつれ、核兵器以外の手段が重要な意味を占めるようになる」とNPRには記されている。

生物・化学兵器やテロには効果なし?

 オバマ政権外部の専門家は、ミサイル防衛に重点を置いたNPRの提案が本当に生物化学兵器や核を用いたテロ攻撃への抑止効果をもつのか、懐疑的な目を向けている。「最大の脅威がテロリストによる核の使用だとしたら、もちろん抑止力は働かないし、ミサイル防衛も役に立たない」と防衛コンサルティング会社、戦略地政学分析所のピーター・フエシー所長は語る。

 一方、ミサイル防衛を強く支持する米政権の姿勢は、オバマが08年の大統領選で行った批判と矛盾するとも、フエシーは指摘する。「このような方向変換は米国民も予期していなかっただろう。ミサイル防衛は今やアメリカの安全保障政策の中心に据えられている。その点は明らかに選挙戦当時のオバマの方針とは異なっている」


Reprinted with permission from "The Cable", 07/04/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中