最新記事

アメリカ政治

オバマ医療保険改革可決の勝者と敗者

内政の最重要課題の達成で、オバマ以外に笑うのはあの人とこの人。では泣くのは誰と誰?

2010年3月23日(火)17時35分
ハワード・ファインマン(ワシントン支局)

命拾い 3月21日、米下院での医療保険改革法案の可決によって、オバマとバイデン副大統領(左)は最大の難関を切り抜けた Jonathan Ernst-Reuters

 3月21日、米下院で医療保険制度改革法案が可決された。一連の攻防の最大の勝者がバラク・オバマ大統領がであることは、頭脳明晰でなくても、あるいは私のような自称「政治通」でなくても誰の目にも明らかだ。

 オバマは1年以上にわたって断続的に(最近は集中的に)努力を続け、ついに政権最大の挑戦と位置づけたテーマで勝利を手にした。

 ある意味では、この勝利は最悪の事態を防いだという意味での勝利といえる。法案が否決されるという屈辱に甘んじれば、無力で無能な大統領という印象が強まるのは避けられなかった。ワシントンでは、イメージが現実を作り出すのだから。

 だが結果は逆だった。僅差ではあったが、スポーツの世界と同じく勝ちは勝ちだ。

 以下は、私が独断で選んだ法案成立による勝者と敗者のリスト。トップに来るのは、もちろんオバマだ。

■勝者

オバマ大統領
彼のルーツがあるアフリカの長距離ランナーのように、オバマはこの法案に全力を傾け、なんとかゴールのテープを切った。

ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)
票読みがうまいという評判どおりの手腕を発揮。法案に反対する保守派の草の根運動ティーパーティ−やリベラル派の一部からは痛烈に批判されたが、職務を遂行する方法を熟知していた。

ラーム・エマニュエル大統領首席補佐官
オバマの命を受けて改革の実現に奔走していたが、その手腕には疑問もあった。法案の可決は彼がこのポストに適任であることを示す大きな一歩となった。

メディケイドに加入できないアメリカ人貧困層
約1500万人の無保険者が新たにメディケイド(低所得者医療保険制度)に加入できる

保険に加入する余裕がない中流階級のファミリー層
およそ1500万人が補助金を受けられるようになる

すでに保険に加入している人々
リスクを避け、利益を追求する保険会社のやり方に初めて政府がメスを入れられる

製薬会社
法案成立に向けたロビー活動に800億ドルを投入したが、新たな保険加入者の増加によってその10倍の売り上げを見込める

ティーパーティー運動の参加者
法案成立で戦うべき相手が明確に。下院の採決当日も国会議事堂の近くで抗議運動を展開していた

■敗者

民間保険業界
アメリカの医療は、連邦政府による直接的な規制を受けたことがない民間保険を基盤に成り立っている。だが法案をめぐる攻防から距離を置いていた保険業界は結局、椅子取りゲームに負けてしまった。

保守系寄りの民主党議員と共和党が優勢な州選出の民主党議員
中間選挙までまだ8カ月あるから、挽回する時間は残されている。とはいえ、法案通過が再選の足を引っ張るのは確実で、そのことは本人たちも痛感している。

富裕層やそれに準じる高収入の納税者
個人で20万ドル、家族で25万ドル以上の収入がある世帯は増税となる。法案は大規模な歳出削減を想定しているが、現実的で中立的な観測筋の大半は、メディケアなどでの医療費削減は不可能で、負債がさらに拡大すると予想している。

共和党
中間選挙では確実に議席を伸ばすだろうが、期待しているほどではない可能性もある。共和党議員にとっての不安材料は、新法が制定されても世界が終わるわけではく、実際には大した変化は起きないこと。一方、民主党議員は選挙戦で「成果」を訴えることができる。また、オバマ大統領の「勝者」のイメージが広がるほど、共和党は負け組にみえてしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ補佐官を擁護 フーシ派攻撃の情

ビジネス

アップル、今年の世界開発者会議は6月9―13日に開

ビジネス

米国、輸出制限リストに70団体を追加 中国・イラン

ビジネス

米財政状況は悪化の一途で債務余裕度低下、ムーディー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    【クイズ】トランプ大統領の出身大学は?
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中