最新記事

アメリカ政治

それでもアメリカにはネオコンが必要だ

新保守主義は科学や知性を尊重し、過激さと無縁な原点に立ち戻れ

2010年2月1日(月)15時29分
デービッド・フラム(アメリカン・エンタープライズ研究所特別研究員)

 新保守主義、いわゆるネオコン──これ以上の「罵り言葉」があるだろうか。イラク戦争の責任を問われ、ハリケーン・カトリーナの被災地への救援活動が遅れれば非難される。アメリカ国外でも評判の悪いネオコンは、もはや死に体と化したように見える。

 しかし彼らは息を吹き返すだろう。ネオコンは、2大政党制によるアメリカ民主政治のバランスを保つために必要な存在だ。

 前アラスカ州知事のサラ・ペイリンやラジオ番組司会者のラッシュ・リンボーに代表される08年以降に台頭した右派勢力では力不足だ。信頼に値する代替政党が現れない限り、アメリカ人は(さまざまな問題点があるにしても)民主党政権を受け入れ続けるだろう。

 もとよりネオコンの使命は、新たな政治的選択肢をつくることだった。ネオコンの創始者といわれる評論家の故アービング・クリストルは03年にこう記している。「ネオコンの本来の使命とは、それまでの共和党とアメリカの保守主義を現代民主主義国家の統治にふさわしい新種の保守主義に変えることだった」

「ネオコン」という言葉は60年代後半、リベラル思想に由来した当時の大規模な社会改革を批判した勢力を指す呼称として誕生した。彼らは、再開発事業は都市を壊し、貧困対策はかえって貧困を深刻化させていると指摘した。

 こうした思想を持った人々の大半が民主党員として政界に入った。その多くはそのまま民主党にとどまったが、一部、途中で共和党にくら替えした人たちがいる。彼らは共和党に新しい見識や気質を持ち込んでくれた。これこそ、当時と同様、今日の共和党が心底必要としているものだ。

 第1に、彼らは現実的だった。ネオコンはジャック・ケンプ下院議員やカリフォルニア州知事ロナルド・レーガンなどの共和党政治家に社会保障や医療保険制度を受け入れさせた。

 第2にネオコンはデータの検証や正確性にこだわり、自分たちが間違ったときには非を認める器も持ち合わせていた。確証もないのに騒ぎ立てる今の共和党とは大違いだ。バラク・オバマ大統領の医療保険制度改革案には「高齢者の医療費を抑制する『死の審査会』条項が含まれている」と叫ぶペイリンがいい例だろう。

 第3に、彼らは社会における宗教の役割に敬意を表しながらも、その政策は極めて世俗的だった。

 第4に、彼らは政治に頭脳と知識力が必要なのは当然だと考えていた。ヘンリー・ジャクソンやダニエル・パトリック・モイニハンといった頭の切れる政治家を崇拝した。2人とも民主党議員ではあったが、ネオコンに多大な影響を与えたといわれる。

来たれ「ネオ・ネオコン」

 第5に、ネオコンは元来、楽観的で、政府に対して過激な行動を取ることはなかった。最近、急進的な右派がデモ行進や集会の場に銃を持ち込む姿が見られるが、60年代のネオコンはそのような行動をいさめたものだ。残念ながら今の共和党には、そうした過激派を取り締まる政治家がいない。

 現在の党派対立を超えて、全米に保守主義の流れを再構築するのは決してたやすいことではない。それでも、競争力ある政治体制を維持していくには、これをやってのけるしかない。

 06年の中間選挙と08年の大統領選挙で、アメリカの有権者は無能で時代遅れの共和党に三くだり半を突きつけた。だがその拒絶は、民主党に「好き放題にしていい」と言ったわけではない。アメリカ人はやはり自分たちの政治にバランスを求めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明らかに【最新研究】
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 8
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 7
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中