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ビッグアップルのビッグな都市問題

ニューヨークはウォール街依存ではジリ貧になる。3期目に入ったブルームバーグ市長は、金融以外の産業を伸ばして中間層を増やせ

2010年2月16日(火)16時52分
ジョエル・コトキン(米チャップマン大学都市未来学フェロー)

 1月1日、3度目の市長就任式に臨んだマイケル・ブルームバーグは、ニューヨークが直面する課題について楽天的な調子で語った。だが状況は彼が考えるほど甘くはない。アメリカの資金力はワシントンに移り、グローバルな影響力はシンガポール、香港、上海に移りつつある。仮に地元経済が回復しても、彼の有力な支持者らを雇用する伝統的なメディア業界の没落は続く。

 ニューヨーカーは今までずっとニューヨークを過大評価し、歴代市長もそれを助長するようなモットーを叫んできた。前市長ルドルフ・ジュリアーニは「世界の首都」と言ったし、ブルームバーグは「ラグジュアリー・シティー」と形容した。しかし、ブルームバーグが3期目に入った今、ニューヨークは経済戦略を見直さないといけない。

 まず、ニューヨークは世界がひれ伏すような街ではないという事実を認識することが大切だ。経済を再生させるためには、惰性にもウォール街の巨額ボーナスにも頼ることはできない。中間層の住む地区を立て直し、ニューヨークの長所を十分に生かせる業種に産業を多様化させる必要がある。つまり移民を引き付ける力、港、それにデザイン・文化・高級な専門的業務における優位性を生かすのだ。

 さらに、テレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』のように独身者が恋愛を楽しむ都市というイメージを脱却して、子育てもできる「セックス・アンド・チルドレン」な街に変身することも重要だ。80〜90年代に生まれたミレニアル世代が、今後10年間に20代後半から30代前半の年齢に達する。だが将来有望な若者がニューヨークに移ってきても、この年齢になると出て行ってしまう傾向がある。

 ニューヨークは過去10年にわたり、アメリカで人口の流出が最も大きかった都市の1つだ。ニューヨークに移り住んだ独身の若者も、家庭を持つ頃には他の地域に移ってしまう。市財務局の05年の分析では、転出者のうち子供を持つ人の割合は転入者の3倍だという。

 ニューヨークが繁栄するためには、おおむね中間層に属するこうした家族を地元にとどめる必要がある。そのためには、07年に市内の総所得の35%を稼ぎ出したウォール街に経済を依存せず、他業種に多角化することだ。今回の景気後退で市内の金融業界では4万人の雇用が失われたが、実はそれ以前から雇用はゆっくり減っていた。過去20年で10万人の金融関係の職がニューヨークから消えていった。

 金融サービスは好況期には莫大な収入をもたらしたが、もはや十分な雇用すら提供できなくなった。地域開発コンサルタント会社プラクシス・ストラテジー・グループの分析によれば、金融は今ではニューヨークの雇用の8分の1を占めるにすぎない。雇用の増加分の大半は、それより低賃金の医療や観光などの業界で生まれている。

 経済的に持続可能な都市になるためには、さして裕福ではない市民が住む地区の開発を促す政策が必要だ。ニューヨークといえば中心部のマンハッタンを思い浮かべる人が多いが、市民の4分の3はそれ以外の4つの行政区であるクイーンズ、ブルックリン、スタッテン島、ブロンクスに住んでいる。中間層の主要な住宅地はベイリッジ、ホワイトストーン、フラットブッシュ、ハワードビーチ、ミドルビレッジといった地区にある。

普通の住宅地こそ重要

 これらの地区は過去10年、ブルームバーグの言うラグジュアリー・シティーらしい高級住宅街と、市内に散らばる貧困地区との間のいわば緩衝地帯となってきた。市長や都市計画専門家、開発業者はこうした中間層地区の人口を増やしたいと考えている。

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